中小企業は成長できるか、したいか

(2023.03.09)
中小企業庁「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会(第2回)」
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/seichoken/002.html

中小企業庁が「成長と分配の好循環」を実現するために、「成長志向の中小企業」を多く創出することをめざして立ち上げた研究会です。具体的な目的は、成長に至る中小企業の特徴やモデルケースの探究を行った上で、中小企業の成長経営の実現に向けた新たな政策の方向性を検討するとあります。
今年6月くらいまでに中間まとめを作成する予定です。出席の委員は、大学教授、コンサルタント、商工会議所の関係者です。
議論は、特定企業の経営や従業員の事例に触れる可能性があるため原則非公開ですが、個別に判断するとのこと。これまで2回の研究会では事例集が非公開になっているだけで、その他の資料はオープンでした。

●中小企業と一口に言っても・・・
第1回でもさっそく議論になったのは、中小企業をどう分類するかです。売上高、従業員数、社歴、成長段階等々、たくさんの区分軸が存在しそうです。
そこで、成長という切り口で調べることになり、売上高が10億円以下から10年間で100億円超になった企業127社を分析しました。その結果、だいたい3つのパターンが見えたそうです。

A.市場成長型参入した市場自体が規模拡大したもの(18社)。DX、人材紹介等の業種が多く、たしかに最近の動向をよく反映していると見えます。市場の波にうまく乗っている企業ともいえます。
B.独自価値創出型M&Aや市場規模の拡大が理由でないもの(AでもCでもない)(7社)。独自の価値を出して売上を伸ばした企業で、バルミューダ(高級家電)やI-ne(オーガニック化粧品)が例として挙げられています。ここに入る企業こそイノベーティブといえるでしょう。
C.成長志向M&A型M&A等の組織再編を活用したもの(4社)。M&Aによって上流・下流の商流統合(垂直統合)、事業領域の拡大(水平展開)をはかった例が挙げられました。M&Aの利点を生かして成功した企業といえます。

中小企業庁としての問いは、”Cパターンの後押し政策を出すべきだろうか”という点にあります。またA、Bパターンを踏まえて、”経営人材(右腕人材や後継者)政策や中小企業への情報提供及び情報発信”の重要度も研究会に投げかけられています。
●ファミリー企業のM&A
林侑輝氏(大阪公立大学)の研究分析結果はM&Aの売り手としてファミリー企業(FB)を分析したものとして、たいへん興味深いものです。最近の欧米における研究論文を引用して、次のような傾向を指摘しています。
・FBは業績に対する熱意が比較的低く、そのため撤退の可能性が低い(儲かっていなくてもよい)
・FBは社会情緒資産(Socioemotional Wealth: SEW)の視点からは、第三者承継(売却)は「失敗」と映る
・FBは業績が悪いほど、撤退しにくく、合併存続を選択しやすいので、出口戦略の選好順序は「合併存続>解散>譲渡」となる →買収ターゲットとして魅力が低い

あと、企業家の引退意向、出口戦略、引退準備を分析した研究からは、企業家の志向が出口戦略に影響を及ぼすことが示されていますが、日本の中小企業経営者にあてはまるかどうかは未知です。
いずれにせよファミリー企業には社会情緒資産(SEW)が大きく影響していることはたしかなようです。
日本の中小企業でも、経営者の高齢化にともなって事業承継の問題が大きく取り沙汰されるようになっています。この問題に、国がさまざまな施策で後押しすることは期待されます。
一方、企業の付加価値を担ってきた職人肌の従業員も高齢化して、技術の伝承ができなくなりつつあります。このままでは日本の手工芸分野は絶滅してしまうことを危惧します。経営者の議論だけでなく、このような技能の伝承についても、さまざまな政策手段が必要のようです。こういう以心伝心、暗黙知とよばれる領域こそ、人工知能(AI)の活躍が期待されます。■

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