初耳係長

(2024.12.06)
今回はちょっとした口直しのような話題提供です。
政府系の広報誌はほとんどデジタル化されて、ネットワーク上で気軽に読めるようになってきました。そこで行き当たった記事の紹介です。

国土交通省の広報媒体の一つとして、ウェブマガジン Grasp というものがあります。
https://www.magazine.mlit.go.jp/
以前は、広報誌として「国土交通」という冊子が2ヶ月ごとに発行されていましたが、2018年4-5月号を最後に形を変え、新たに Grasp に変身しました。

従来の「国土交通」も読みやすさのためにさまざまな工夫を凝らしていましたが、他省の広報誌とほぼ横並びの造りでした。省の部局の紹介や、外部関係者のインタビューとかです。情報量は多く、有益な話題ばかりです。まじめだが、少しとっつきにくいといった印象でしょうか。

しかし今の Grasp は趣向を大きく変えています。
情報の量を大きく減らすかわりに、国土交通の世界の中で、一般人が興味を抱きやすい記事を極端に目立つ形で提示しています。
かなり大胆なコンセプトを打ち出しているコーナーとして、「初耳係長」に注目してみました。

●初耳係長
このタイトルが秀逸ですね。
”係長”というやや昭和時代を思わせる言葉が、”初耳”という言葉とくっつくと新鮮な驚きをもたらします。

「埋立係長」と見ると、(ご当人には失礼でしょうが)少しクスッとなります。そもそもこういう職名をふだん目にすることがないので、”埋立”をしている”係長”をイメージしてしまうわけです。掲載されているイラストもまさしくそのイメージを増幅しています。

不思議なのは、単独で”埋立係長”と読む場合と、”港湾局 総務課 埋立係長”と読む場合では、まったく印象が異なることです。後者を名刺上で見てもおかしい感じはなく、組織の中でしかるべき地位を示す、ごく普通の名称に感じます。
そこがまさにこの連載の目のつけどころなのでしょう。係長名から仕事内容を想像する楽しみ方ができます。

国土交通省では、いかに多様な仕事をさまざまな現場でおこなっているかということを、こういう驚きと少々の可笑しみ(おかしみ)で表現しています。広報としては成功でしょう。

●他にもこんな係長がいる
「改良係長」、「許可係長」、「性能係長」など、もう少し説明の言葉を付けてほしいと思うものや、
「直轄高速係長」、「ウィンドプロファイラ係長」など、言葉自体がまったく理解できないもの、
果ては、
「急傾斜係長」、「重力係長」など、想像力の限界を試されるようなものまであります。

●権限と名称
係長とか主任の英語名は "CHIEF" ですから、今どきの民間企業の名刺であれば、おしゃれに”なんとか担当チーフ”と書かれたりするでしょう。
しかし、国の機関ではあえて伝統ある漢字を使っているところがミソです。
また取り上げている職位が局長とか課長ではなく、係長という点もよい狙いです。
課の名前はそれなりに大きな権限を示しますので、一般人にとっても何となくわかる言葉を使います。”総務課”とか”会計課”という名称です。
しかし、その課の中でより細かく、具体的な仕事を指す係の名は、その省庁の人か、関係の深い外部者くらいが理解できていれば問題ありません。その”マイナーな”係名を一般人が見たら、さぞ新鮮に感じるのではないか、とコーナーの企画者は思いついたのかもしれません。■

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