早生まれ

(2026.03.31)
年度の最終日3月31日も「年度」の話です。「年度」シリーズの第3回となります。

●年度という枠の問題
「物資年度」で説明したように、米や砂糖のように収穫の時期がほぼ決まっているのとは違い、人間の誕生は年間を通してほぼ均一の発生分布です。
「学校年度」はそこに機械的に枠をあてはめるので、どうしても時間的に成長が進んだ子とそうでない子が一つの枠の中に押し込められます。

枠の中で特に生まれ月が1月~3月の子が”早生まれ”と言われます。
勉強やスポーツなどは年度枠の中で相対比較され、競争させられるわけですから、ともすれば早生まれの子は低く評価されがちとなります。すでに穂をつけた稲と、まだ青い葉だけの早稲を比較するようなものです。

●実証的研究
生まれ月によってスキルの差が顕著であるという実証的な研究論文[1]が示されています。その結論からは残念ながら「早生まれは損」という言葉は当たっているようです。

●埼玉県のデータ
この論文の基礎データは埼玉県下(ただしさいたま市を除く)の約1,000の公立小中学校に通う小4から中3までのすべての子どもたちを対象とした「埼玉県学力・学習状況調査」から得られた4年分、のべ100万人超の巨大なデータセットです。

図1は認知スキルとして生徒の月齢と「算数・数学」のテスト結果(標準偏差)を図示したものです。月齢が高くなるとともに学力がきれいに並んでいることがわかります。つまり同じ学年内ではほぼ必ず月齢が高いほうが成績がよいという結果です。
同じ学年内では低学年のうちは差が大きいですが、中学3年生の頃になるとかなり差が縮んでいます。それでも月齢による差は残ります。

図1. 認知スキルと月数の関係([1]より引用、加筆)

図2は同様に非認知スキルを月齢に応じて図示したものです。ここでは統制性※、自制心※、自己効力感※という3つの非認知スキルを調査しています。
この図で目を引くのは、学年が上がるにつれてこの非認知スキルが全体として下がっているという点ですが、どうやら諸外国でも同様で、思春期特有の特徴のようです。
それよりも重要なのは、各学年内では認知スキルと同様に月齢が高いほど非認知スキルのスコアも高いという点です。さらに非認知スキルのほうは学年が上がっても差が縮まらないという傾向がみられます。

※統制性(conscientiousness):自分の行動をどれくらい統制できるか、あるいは衝動的かということを反映する因子
※自制心(self-control):自分の欲望や感情を抑え行動をコントロールしようとする意志
※自己効力感(self-efficacy):自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること

図2. 非認知スキルと月数の関係([1]より引用、加筆

●認知スキルの補てん
では早生まれの生徒の保護者はどのように対応しているか。
調査では、学校外(塾を含む)での学習時間と読書時間については、早生まれの子どもたちほど長いことが分かったそうです。
逆に、屋外での遊びやスポーツへの参加、塾以外の習い事については、早生まれの子どもたちの参加率が低いことが明らかになりました。
少なくとも勉学の面で遅れを生じないように保護者が後押ししている状況が見えます。

●非認知スキルの遅れ
スポーツや音楽、芸術などの活動は非認知スキルの発達に寄与する可能性があるという研究結果もありますから、このような認知スキルの補てんに時間をかけることが、さらに非認知スキルの遅れも招きやすいという構造が見えました。
早生まれの人は二重の意味で生まれながらの不利を背負っているといってよいでしょう。

●早生まれ生徒への配慮
研究を主導した東大・山口慎太郎氏は保護者、教育関係者に向けて、上記のような状況に置かれている早生まれの生徒については、
”同級生と比較しない”、
”発達に合わせた教育や習い事”
などの注意を呼びかけています[2]。
また特に非認知スキルが大きく働く学級委員や班長の担当に偏りが出ないように配慮を求めています。

●縮まらない格差
日本のデータを用いて行われた従来研究によれば、4~6月生まれと1~3月生まれでは大学進学率が異なるうえ、30代前半の所得には4%もの違いがあるといわれます。
また海外での研究を見ても、アメリカの大企業のCEOや連邦議会議員には、9~12月生まれの人が多いことが明らかにされているそうです。

残念なことに早生まれの不利を人生の後々まで引きずるようです。誠に気の毒というしかありません。

●やむを得ない格差か
本来、能力に差異がないまま成長するはずが、学校年度という強制枠のために人為的な相対差が付けられてしまい、劣等感を抱くという構造になっています。
「学校年度」という枠による人為的な格差といってよいでしょう。

海外では保護者の判断により就学年度を繰り下げたりすることも認められているそうですが、横並びの意識が強い日本の保護者が繰り下げを申請することは少なそうです。

たかが「年度」の言葉から、教育上の根深い問題に行き着きました。
年度末の3月31日の記事としては少々重い話になったかもしれません。(ちなみに4月1日に誕生した子は”早生まれ”になります[3]。)
いろいろな場面で登場する「同期」という言葉も、安易に使えない気分です。■

[1] 山口、伊藤、中室「生まれ月がスキルやスキル形成に及ぼす影響」、RIETIノンテクニカルサマリー(2020年10月) https://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/20e079.html ("Month-of-Birth Effects on Skills and Skill Formation", RIETI Discussion Paper Series 20-E-079 https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/20e079.pdf)
[2] 山口「早生まれの不利 必要な配慮は」、日経新聞2024年2月20日 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO78612480Q4A220C2KNTP00/
[3] 参議院法制局「4月1日生まれの子どもは早生まれ?」 https://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column011.htm

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