本のお誘い

(2025.06.10)
6月10日に経済産業省から「書店活性化プラン」が発表されました。
https://www.meti.go.jp/press/2025/06/20250610004/20250610004.html
街中にある「書店」は創造性が育まれる文化創造基盤として重要である、という認識に立って、2024年から経済産業省内のプロジェクトチーム(PT)が活動してきた成果です。
●経済産業省内で珍しいチーム
この「書店振興プロジェクトチーム」は、大臣肝入りで2024年3月に発足しました。齋藤健大臣(当時)が本屋を支援する活動[1]をしていたことが背景にあります。
”経産省で政策アジェンダごとに部局横断のチームが編成されることはあったが、特定の業種に特化したPTの設置は過去に例がない。
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関与する部局課室は10程度にのぼり、中小企業支援ツールを有する中小企業庁の関係部局などが参加し、約20人のチームメンバーが集まっている。”[2]
これ以外に、文化庁・文部科学省・外務省など、本や書店に関係する省庁との情報共有もおこなっています(今回の書店活性化プランもこれらの多くの省庁が連名で発表した形となっています)。
これまでの経済産業省から見ると、たいへん異色の取り組みであることがわかります。経産省広報の中でも特別なコーナーを作っています[3]。
●政治家からの意見
おそらく官僚主導では始まらなかった政策が、政治活動からの(よい意味の)圧力によって動き始めたという現象が見られます。
[1]の書店議連は2016年発足時は40名ほどだったそうですが、今や150名ほどに増加しているそうです[4]。
2023年4月にこの書店議連が
「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟 第⼀次提言」[5]
によって、関係する業界や省庁に向かって意見を出しました。
それに対してそれぞれの立場から反論したり、議論を始めたりといった動きが始まりました。
経産省のPTはその動きの一つといえます。
●これまでの成果
このPTは発足以降、次のような活動を進めてきました。
「書店経営者向け支援施策活用ガイド」を2024年10月公表
「関係者から指摘された書店活性化のための課題」を2025年1月に公表
「書店活性化プラン」を2025年6月に公表
「書店経営者向け支援施策活用ガイド」を2025年6月に改版
きっかけとなった議員連盟の一次提言から約2年です。
●書店をめぐる主な課題
今回の「書店活性化プラン」はこれまでの議論を整理して、具体的にどのような形で書店を支援していくか、特に中小企業支援の立場から課題を整理しています。目次に沿って並べると次のようになります。
(1) 社会的な変化
流通経路の変化として、Amazonのような通販がリアルな書店を駆逐していることはいうまでもなく、さらに少子化によって読書人口自体が減少しています。
これらが書店ビジネスの縮小に直結しています。

(2) 活字離れ
オンライン・コンテンツの増加にともない、本を読まなくなったという現象があります。
(3) 業界の問題
これは消費者には見えない部分ですが、書籍の返品、再販という制度が書店の悩みになっている可能性があります。
(4) 経営効率化
書店にかぎらず、中小企業においては生産性向上、経営効率化が進んでいません。IT導入もこれからという段階です。
(5) 新規開店やキャッシュレス対応
書店業界におけるスタートアップ、あるいは地方創生への取り組みに対して、十分な支援が必要とされます。
●これからが勝負
この数年間でずいぶんと書店をめぐる議論は活発になってきました。
経産省のPTが具体的な政策の成果を出すにはまだ時間がかかるでしょう。
ただ関連する多くの省庁が足並みを揃えて動いてゆけば、相乗効果による加速が期待できます。
●経済と文化
本が好きな国会議員が集まって議員連盟を作ったのがきっかけということですから、永田町界隈としてはずいぶんと文化的な香りがします。
これから人口減少とともに地域社会の縮小が避けられません。
すでにいくつかの実例が出ていますが、地域の流通・文化の拠点として郵便局、書店、図書館が注目されています。学校やコンビニも加えてもよいかもしれません。
別に新しい施設を作らなくても、今までの施設の役割を拡大・連携させることで、社会生活を豊かにできそうな気がしてきます。
リアルな書店ならではの経験として、書店の中をぶらついているうちに、本のほうから誘ってきたという感覚を持ったことのある人は多いと思います。買っただけで積ん読になった人も多いでしょうが。■
[1] 「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟(書店議連)」(これに関連するニュースは https://www.bunkanews.jp/article/tag/街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議/)
[2] 「経済産業省 書店振興プロジェクト、官民連携の取り組みが本格化 PT長・南氏「本や書店の存在意義、強みを生かす」」、BookLink、2024.05.28 https://book-link.jp/media/archives/14475
[3] 「魔法の薬はない書店支援。プロジェクト推進役が描く策は地道、でも抜本的」、今どきの本屋のはなし(2024.11.08) https://journal.meti.go.jp/p/35976/
[4] 桑原亘之介「街の本屋支援議員連盟総会」(2024.04.18) https://note.com/kuwa589/n/neab4609fc07c
[5] https://www.jpic.or.jp/topics/docs/e250d610845c5c900e527e17de8ccb9977a8ed45.pdf