アナログではない、アナクロだ
(2023.03.24)
デジタル一色の21世紀ですが、アナログの世界が再び見直されつつあるようです。音楽ではLPレコードがCDに駆逐され、果てはCDもオンライン視聴に取って代わられていますが、どうやら再びLPレコードが復権し、店舗販売も拡がっているそうです。レコードに針を落として、アナログの音楽世界に浸る光景には、けっこう生活の豊かさを感じます。電波から遮断されて、レコードと本に囲まれる生活はすこぶる贅沢なものと言えましょう。
さて、政策の世界では今や「アナログ」は目の敵のように扱われています。
上に書いたように、アナログはそれ自体が価値を持ち、けっして悪者扱いされるいわれはないと思いますが、どうやら「デジタルでない」ものの総称としてアナログが批難されているようです。
・・・・法令をはじめとする我が国の社会制度やルールに、アナログ的手法を前提とした「アナログ規制」の存在であり、アナログ規制が広く社会に浸透していることが、「デジタル化」を阻害し、デジタル技術の活用を阻んでいるという点である。(※1)
総理大臣の肝入りで「デジタル臨時行政調査会」(2021年11月~)が開催され、「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」が公表されています。その中で、アナログ規制の代表として、次の7種類+1種類が挙げられています。
「目視規制」
「実地監査規制」
「定期検査・点検規制」
「常駐・専任規制」
「対面講習規制」
「書面掲示規制」
「往訪閲覧・縦覧規制」
及び「FD 等の記録媒体を指定する規制」
けっこうあります。
昔は書面1件ずつ、丁寧に確認し、承認していた経緯があったのでしょう。生身の人間が現場に立ち合うことによって、確認の質を高める意味もありました。昭和時代の役所のイメージですね。
しかし今は申請書も膨大になり、規則を守って処理しようとする行政窓口では、非正規雇用の事務員を大量に雇わなければ追いつかない状況になっています。
さらに、”FD等の記録媒体”という文章にも驚きましたが、FD(フロッピーディスク)が今も現役で使われているという事実もさらに驚きです。(私が最後にFDを見たのはいつか思い出せません。)
それで全省庁を対象に、上に該当する規制がどのくらいあるかを調べてみると、「9,029条項」あったそうです(※2)。それら一つ一つを精査して、必要か不必要か、デジタル化するときどのような技術を使って、どのくらいの移行期間を設けるかなどを丁寧に検討していきます。そして地方公共団体の規制についても同様に拡大していく予定。
そして、2023年3月13日には「デジタル原則を踏まえたアナログ規制の見直しに係る工程表」にいくつかの情報が追記されました。
規制の抜け穴を防ぐ、あるいは安全性が強く求められるような場面では、やはり人の目視確認や実地確認が必要な場合があります。それらには従来通りのアナログ的手段を残します。つまり、すべての規制についてデジタル第一とし、必要に応じてアナログ的手段を用いるという方針に転換したわけです。
これから省庁ごとに規制の見直しが進んでいくでしょうが、便利で気の利いた行政サービスになってほしいものです。
それにしても”アナログ規制”という言葉は、アナログに対しては気の毒な命名と思います。いっそ、”アナクロ規制”と呼べば(※3)、まったく同感できそうです。
将来、”昔はこんな世界があったのだ”、と驚きをもって見られるような時代が来ることを願います。■
※1 「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」、第4回デジタル臨時行政調査会(2022年6月3日)
※2 「デジタル原則に照らした規制の一括見直しの進捗と取組の加速化について」、第5回デジタル臨時行政調査会(2022年10月22日)資料2
※3 アナクロニズム(anachronism)。時代錯誤、時代遅れ。