AIはガルガンチュアか

(2024.10.09)
10月4日に、総務省と経済産業省は「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合 中間とりまとめ3.0」を公表しました。
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban04_02000248.html
https://www.meti.go.jp/press/2024/10/20241004004/20241004004.html

クラウド化やAIの導入・進展と相まってデータセンターの新規投資が一層拡大しており、特に生成AIの台頭に伴うデータセンターの役割や用途の変化と大規模化により、これまでの延長線上でデジタルインフラを捉えることは困難な変革期を迎えています。

そこで、日本のデジタルインフラが進むべき方向を考えるために、2022年から有識者が議論を重ねてきました。会合には総務省、経済産業省、文部科学省、国土交通省、環境省等、幅広い役所が参加しています。それだけこの話題は多方面に影響がおよぶということです。
この会合では、これまで同様の中間まとめを2回公表してきました(2022年1月17日、2023年5月30日)。それに続く3回目のまとめです。

●デジタルインフラに吹くAIの風
中間まとめ2.0(第5回(2023年3月22日))のあたりまでは、まだ従来のデータセンターが議論されていました。すなわち、①自然災害時等へのレジリエンス強化、②地方の再生可能エネルギーの効率的活用、③地方で生まれるデータの「地産地消」を可能とする通信ネットワーク等の効率化等が中心課題でした。
それが2024年に入った第7回(2024年5月30日)あたりから、デジタルインフラのドライバーとしてAIが追加されるようになりました。中間まとめ3.0では、AIの導入によってデータセンターの役割・用途が変化するとともに一層の大規模化を起こすことを述べています。
この背景には、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024 改訂版」(2024年6月21日)において、データセンターが戦略分野の一つとして位置づけられたことがあります。

データセンターやAIについて日本が注目されているのは、いくつかの理由があると、AIの研究者である松尾教授は以下のように指摘しています(※1)。

●日本が注目される理由
かっこ内は筆者のコメントです。

<AIにポジティブな反応>
国全体でのAIに対する積極的な取り組み
失業等の懸念が大きい他国と比較すると、日本は高齢化しており、AI活用が待ったなしである
ChatGPTの利用者数が世界で3位
(→つまり日本ではAIに対する拒否反応が少ないと見られています。外国では労働者保護の立場から反対が出てくるのでしょうか。)

<人件費の安さ>
円安が強まったことも相まって、G7の中で日本は賃金が安い
優秀なAI人材が、雇用しやすい
(→世界の人件費相場から見れば、まあ事実でしょう。30年間に渡って高度専門職の待遇を良くしてこなかったことの裏返しでもあります。優秀なAI人材が豊富かどうかは疑問です。)

<大企業のDX余地が大きい>
世界的な売り上げを誇る企業が数多くある
内部留保の大きな企業も多く、AIなどDXに使う余地が潤沢にある
一方で、DXが進んでおらず、それに対しての危機感が高まっている
(→大企業では、DXによるビジネス拡大よりも、データ流出を恐れて情報セキュリティの強化のほうに関心が向いていると見えます。攻めよりも守りに汲々としている姿です。しかし、外からITへの投資が増えると、それに誘導されるように日本企業の投資増加も期待されます。)

●データセンターは地域興し?
討議の経緯を見ていると、データセンターの設置はその地域の経済を伸ばす効果が期待されています。
しかしその期待が過剰になって、各地での誘致合戦が起きる可能性も出てきます。

●電気がなければただの箱
しかし、まず心配されるのは電力供給の問題です。膨大な電力を用意する準備ができているかどうか。データセンターの近隣に発電所を設置する(あるいはその逆)とか、学習用AIと推論用AIといった用途別の電源確保も検討する必要が出てきます。
データセンターの議論というより、発電所の立地問題が議論になってしまいます。原子力発電所を頼りにできるのかどうか。

●作れるのか?
現実的な問題の第二は建設問題です。巨大で堅牢なデータセンターを作るだけの資材と人材が揃えられるか。今の段階でも、各地の建設作業において人手不足が顕著に見られます。着工が大きく遅れると、日本のAI戦略にも支障が生じるかもしれません。そういう心配も出ます。

●解きがいのある複雑問題
データセンターの設置は、さまざまな因子が絡みあった複雑な問題です。何を目的とするか、によって解き方は変わってきます。
多数の省庁が関与すればするほど、その目的が玉虫色になってしまう可能性も高いですね。■

※1 AI戦略会議第9回(2024年5月22日)資料1-4(松尾委員) https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_senryaku/9kai/shiryo1-4.pdf

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