雇用保険をめぐる話

(2023.05.18)
5月12日に厚労省から「雇用保険制度研究会 中間整理」という報告書が公表されました。
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33021.html)

雇用保険制度研究会は、厚生労働省職業安定局長の名で設置された研究会で、2022年度に「雇用保険の給付と負担の在り方」をテーマとして、ほぼ1年間の討議をおこないました。このたびその中間まとめを公表したものです。

●雇用保険とは
雇用保険の対象者、すなわち大半のサラリーマンにとって、なじみのある名称で、それにしては実態をあまり知らない保険の話です。
雇用保険が一番活躍するのは、それまで働いてきた職を失う「失業」状態になったとき、次の職を得るまでの生活を支える資金が支給されるときでしょう。
次に「育児休業給付」があります。失業状態にならないまでも、出産・育児のために休職する場合に、ある期間の収入を補うものです。
他方、「雇用機会の増大」や「労働者の能力開発」など雇用に関する総合的機能もあり、「二事業」(「雇用安定事業」、「能力開発事業」)とよばれます。

●働く意思があること
ハローワークの窓口に行けば、すぐ保険がもらえると思い込んでいる人が大勢います。しかし、そうではないことが最初の面談で思い知らされます。
雇用保険における「失業」とは、単に職業に就いていないという事実のみならず、労働の意思・能力があるにもかかわらず職業に就くことができない状態を意味しています。したがって、原則4週間に1回の失業認定日に、ハローワークにおいて労働の意思と能力があるかを判断しているわけです。

●雇用保険の課題
このように失業もしくは休業したときの、セーフティネットとして雇用保険は重要な役割を果たすものですが、COVID-19禍が雇用に大きな影響を与えた中で、雇用保険財政の安定運営のために、「雇用保険法」等の改正(2022年)(※1)がおこなわれました。その際、国会審議において様々な指摘を受けたことに対応して、厚労省内の研究会を開催して、現状分析や課題整理をおこなった結果が、今回の中間まとめです。

これまで雇用保険は「正規雇用」を前提として、短時間勤務や短期での退職を対象として見てこなかったという状況があります。しかし、副業をはじめとする働き方の柔軟化の動きを見ると、雇用保険が前提としてきたいくつかの条件を見直す必要が出てきました。

また社会保険である以上、保険料の負担能力を無視できません。保険料の負担が増えて、生活が苦しくなるというのは本末転倒です。

また「同種類の危険にさらされている集団」の範囲をどうするかも検討が必要です。つまり雇用保険が救済しなければならない対象者の集団をどう定義するかです。

その他、教育訓練給付や育児・介護休業給付のあり方も、制度の位置付けや財源を議論する必要があります。

退職や求職はそもそも個人の意思や努力にも依存しているため、失業給付が受給できるために失業状態から積極的に脱却しようとしないモラルハザードを招くおそれがある、という指摘もあります。

●雇用についての知識不足
そもそも雇用保険含めて社会保険の制度を知らない人が大半ではないかと思います。給与からの控除項目について、ある程度の知識は持っていても、失業してから、いざハローワークの窓口で相談すると、いろいろな制約条件に面食らうわけです。
あるいは制度についての知識をふんだんに知っていて、形だけの就職を少しして、また雇用保険を受給して、・・・を繰り返す人もいるそうです。

映画「老後の資金がありません!」(東映、2021年)の中に、主人公の夫が失業して、ハローワークにでかけて相談するシーンがあります。多くのサラリーマンはいざ失業すると、こうなんだろうな、と思いつつ、笑いました。■

※1 令和2年特例法制定(令和2年法律第54号)….新型コロナウイルス感染症等の影響により事業主が休業させ、休業手当を受けることができない労働者に関する新たな給付制度の創設、基本手当の給付日数の延長の特例及び雇用保険の安定的な財政運営の確保を図るための法律を制定。
令和2年改正(令和2年法律第14号)….高年齢雇用継続給付の給付率の見直し、複数の事業主に雇用される65歳以上の労働者に対する雇用保険の適用、育児休業給付の位置づけの見直しと経理の明確化、2年間に限った雇用保険料率の引下げ等の改正。

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