イノベーション・コモンズ
(2023.05.05)
4月28日に文科省が、「我が国の未来の成長を見据えた「イノベーション・コモンズ(共創拠点)」の更なる展開に向けて -まとめの方向性-」を発表しました。
(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/062/1417904_00003.htm)
●共創拠点とは
キャンパスをイノベーションを生み出す拠点とするための取組の方向性という意味です。「象牙の塔」という言葉に象徴される孤高な大学像ではなく、広く社会に開かれて、積極的に外部と触発しあい、新しい成果を生み出すキャンパス像を描きます。
そのような新しいキャンパスの姿をイメージしながら、従来の研究設備の保全もおこなう必要があります。
●これまでの経緯
国立大学等の施設整備に向けて、「国立大学法人等の施設整備の推進に関する調査研究協力者会議」が2021年10月に発足して議論を重ねてきました(※1)。
国の方針としては、大学には社会の課題解決や新たな価値の創出などにおいて積極的な役割を期待されているので、大学キャンパス全体を「イノベーション・コモンズ(共創拠点)」へと転換するとしています。
この協力者会議はいったん「『イノベーション・コモンズ(共創拠点)』の実現に向けて-まとめの方向性-」(2022年4月)で全体像を公表しました。
その後、「『イノベーション・コモンズ(共創拠点)』の実現に向けて」(2022年10月)で具体的計画をまとめました。
今回の報告書は第3弾にあたり、デジタルやグリーン等の成長分野やグローバル化への対応等、社会課題や時代の変化に対応した大学等の環境整備について検討した結果です。今年夏までにさらに詳細を詰めて、最終報告がおこなわれる予定です。
●深刻な設備の老朽化
国立大学には運営費交付金とよばれる運営資金が年間約1兆円投入されています。しかしこの資金は大学教員の人件費や設備維持費がすべて含まれており、けっして潤沢ではありません。特に数十年を経た建物や大型設備の修繕は急がれます。そのような老朽改善対象は860万㎡(所要額約1兆500億円)におよびます。
●今回のポイント
環境整備に関する共通の目玉は「デジタル技術も駆使したハイブリッド型環境の整備」です。オンライン化は当然ですが、対面による教育研究のメリット・効果を最大化することもめざします。
環境整備に関するポイントは次の4点です。
①成長分野等の社会課題に対応した人材育成・研究を支える
②地域との産学官連携による人材育成を支える
③ジェンダー、年齢、国籍、障害の有無等の多様性を受け入れる
④国内外の学生・研究者を惹きつける質の高いキャンパス、生活環境
●やりたいこと、できること
今回の報告書では「やりたいこと」をまとめたといえます。会議の委員の多くは大学関係者ですから、大学から見て、優先度の高い取組み方向を書いています。
しかし、実際にマネジメントをおこなう際には、ヒトとカネをなんとかしなければ「できること」になりません。
人材に関しては、まず大学内の教員・職員に、上のポイントの主旨をよく理解してもらい、目標を共有してもらう必要があります。
資金については、最初から満額回答はあり得ませんから、環境整備の優先順位を検討する必要があります。急ぎのものと長期的取組みのものを区分けすることと、複数の大学が横断的に取り組む課題も明確化すべきでしょう。
●失いたくないこと
少子高齢化の進行によって、大学が置かれている環境も悪化しています。その中で、世界トップレベルの研究を進めるには、かなり厳しくなりつつあります。
しかし「研究の自由」はけっして失ってはいけないと思います。発想の自由さこそが研究の独自性や深みの根幹です。カネはなんとかなる、というくらいに開き直るしかないでしょう。■
※1 第6期科学技術・イノベーション基本計画(2021~25年度)に同期して、「第5次国立大学法人等施設整備5か年計画」(2021~25年度))がスタートしています。今回の共創拠点のテーマはこの整備5か年計画の中核であり、その具体的推進方策を議論しています。https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/kokuritu/1318409_00001.htm