日本の物流
(2023.05.01)
4月27日に、経産省で「第9回 持続可能な物流の実現に向けた検討会」が開催されました。
(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/009.html)
すでに2022年9月に第1回が開催されていますので、月1回のペースで議論が進んでいます。
「物流」は大事な話です。
情報通信が発達して、なんでもオンラインでコトをすませることがあたり前になりました。しかしモノは物流がなければ手に入りません。人体でたとえれば、実際に栄養をすみずみまで送る血管システムに相当します。それは大動静脈から末端の毛細血管までつながっていて、日夜動き続けている必要があります。
日々の生活に不可欠なものとして、もっと物流の状況に目を向けるべきだと思います。
●主な課題
- 物流現場においては、担い手不足が深刻化している
- Just-In-Timeのような荷主サービスに適応するために、小口多頻度化、積載効率の低迷や、意図せざる荷待ち時間などの非効率が発生している
- COVID-19下でEC市場の急拡大に伴う宅配需要の急増
- トラックドライバーへの時間外労働の上限規制(休日を除く年960時間)等の適用(2024年度から)
- ウクライナ侵攻の影響による物価高(燃料高)
- カーボンニュートラルへの対応
したがって、物流が直面している諸課題を解決し、更なる物流効率化を進めていく必要性が一層高まっているという認識です。
●検討すべき事項
- 荷主や一般消費者の意識変革のための工夫
- トラックドライバーへの時間外労働時間の上限規制等の適用に対する影響、対応状況
- 物流効率化に必要なこと(商習慣見直し等)
●少し立ち止まって考える
基本は民間企業の話ですから、市場原理に任せるのが常道と考えます。国が介入するのは、
- 市場原理に任せておくと、独占禁止法含めて違法行為が増えたり、一般消費者が不利益をこうむるような場合
- 国の支援がないと、エコシステムが形成できず、企業が退出してしまう場合
の二つくらいでしょうか。
運送業界はどのような状況に置かれているのか、を考えると、いずれでもなさそうな気がします。あえて言えば、すでに運送業として回っている業界の中で、DX含めて新しい仕組みに移行しなければならないが、それを実行できる体力がないという状況でしょうか。経産省のこの検討会の目的は、いわゆる中小企業支援策という位置付けでしょう。
●運送業界の難しさ
社会や経済の変化が急激に来たことで、古い体質を残した業界は対応が追いつきません。特にドライバーについては、労働環境を改善することと、待遇(給与)の向上という二つの課題解決を同時に求めなければならないので、深刻です。
逆に今まで運送業界の矛盾のしわ寄せをドライバーがかぶっていたということでもあります。
難しいのは、業界がすでに成立していて、多重下請けの問題構造も抱えながら、なんとかやりくりしている企業と従業員を保護しつつ、新しい転換を進めなければいけないことです。ここで施策を間違えると、日本経済のインフラである運送が大混乱してしまうことになります。
●ファースト・ペンギン
新しい環境にまっさきに飛び込んで先例を作るたとえとして、ファースト・ペンギンという言葉が使われます。
運送業界の中でファースト・ペンギンと呼べるのは、やはりヤマトの宅急便を創造した小倉昌男氏でしょう。社運をかけて小口運送に転換する過程で、国(具体的には運輸省)の許認可行政とまっこうからやり合ったのは有名な話です。価格改定の審査を早めさせるに、価格改定が遅れるという新聞広告を出し、運輸省を慌てさせたという逸話もあります(※1)。
イノベーションを唱導する経産省ならば、”商習慣の見直し”のような内輪の是正よりも、さしづめヤマトの宅急便のような、従来のやり方にとらわれない、まったく新しい運送業の出現を積極的に支援したほうが、日本の為になりそうな気がします。■
※1 小倉昌男「経営学」、日経BP社(1999年)