歳出改革

(2023.04.27)
4月24日に財務省の諮問会議である「歳出改革部会」が開催されました。
この「歳出改革部会」は、財政制度等審議会の下にある「財政制度分科会」の傘下に、歳出改革について特別に議論するために新設されたものです(2019年4月)。常任委員9名の他、臨時委員16名、オブザーバー11名の大きな会合です。この部会では社会保障費の抑制などが中心テーマになりますが、最近では全領域について議論しているようです。
(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings_sk/material/zaiseik230424.html)

●日本の成長に必要なこと
例年では文教とか防衛とか分野ごとに議論を進めるのですが、今回の議題は「財政各論①成長」となっていて、切り口が少し変わりました。日本の経済成長にとって期待が持てそうな分野として、「労働市場・人への投資」、「GX(※1)」、「DX(※2)」、「科学技術・イノベーション」、「スタートアップ(新規創業)」の5つを選んで討議しています。
以下、それぞれの項目について財政から見た指摘の概略を記しておきます。

労働市場・人への投資について
従来のように雇用主側に従業員の雇用維持や教育訓練を依存するのではなく、雇用保険の適用拡大によって、多様で安心して働ける環境整備に転換すべき。

GXについて
GXへの投資は最重要課題であり、「GX経済移行債」を活用することで、国として先行投資をおこなうべき。その際、投資支援だけでなく、規制・制度的措置も一体的に行う必要がある。

DXについて
DXによる生産性向上が急務。規制改革のために全省庁が類型ごとに標準化した基準を適用して重複した負担を避け、技術革新と規制緩和の好循環サイクルの短期化を目指すべき。老朽化した既存のITシステムを刷新すること。高度な技術力を持つスタートアップ企業の参入促進や、システム開発の内製化も重要。

科学技術・イノベーションについて
量子・AIのような先端技術は社会的・経済的な発展につなぐため、投資効果の最大化が必要。大学等については、研究力が伸び悩む構造的な要因に、大学等が自ら戦略的に対処することが不可欠。競争的研究費が林立・複雑化しており、施策の整理等を進め、政策効果を高めること。

スタートアップ(新規創業)について
企業の新陳代謝を促進すべき。またスタートアップに対する補助金等の公的支援には非効率性の弊害もある。たとえば、宇宙開発について国が全額負担するのではなく、新興企業の参入も必要。大学のTLOもマーケティング機能を強化して起業支援につなげること。人材確保のために広域型TLOも活用すべき。

●歳出改革の役割
財政健全化」という言葉を頻繁に聞きます。政府の歳出が歳入を上回っているために、その穴埋めとして国債を発行している(つまり借金)状態が長く続いています。そのような状態を立て直そうという意味です。
2022年度補正後予算では歳出約110兆円のうち、約1/3は借金 でまかなうことになります。そして今まで溜まった借金(国債残高)は1,029兆円に至っています(※3)。
これから高齢化が進み、ますます社会保障関連の歳出が増えていくでしょうから、早いうちに財政健全化を進めないと、国の財政が破綻しかねません。そのために、歳出、すなわち金の使い方をしっかりコントロールしようというのが、歳出改革です。ただ出口を絞るだけではすみません。将来、金がたくさん入ってくるように使い方を吟味する必要があります。
歳出改革のキーワードは"Wise spending"(財政支出の中身を精査して、より付加価値を生み出すような支出に重点化していくこと)です。これと"Unwise spending"を特定して見直すこととセットで考える必要があります。

毎年、各省から要求される新年度予算の中身をチェックして、国全体としてWiseかUnwiseかを判断するのが財務省です。今回の資料類を読むかぎり、至極まっとうな理屈で、データにもとづいてWiseな指摘をしていると感じます。しかし現場の省庁側にとっても予算要求にはそれなりの理由があります。国民はこの両方を見ておく必要があります。■

※1 GX: Green Transformation
※2 DX: Digital Transformation
※3 財務省「日本の財政を考える 」 https://www.mof.go.jp/zaisei/index.htm

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