地域の幸福とは
(2023.04.18)
3月30日にデジタル庁で、「デジタル田園都市国家構想実現に向けた地域幸福度(Well-Being)指標の活用促進に関する検討会」第2回が開催されました。
第1回は昨年12月19日ですので、しばらく間が開いたことになります。
(https://www.digital.go.jp/councils/digital-garden-city-nation-wellbeing/7b6c0f7f-2b5f-43e6-91a1-5763e367a0c4/)
デジタル庁の考えは、”人口減少に伴い、供給が需要に合わせる経済へ”変わるのにつれて、リアルタイムの需要データが必要になるだろうという点にあります。社会・経済全体が"Just-In-Time”のようになると言ってもよいでしょう。
そのために地域のデジタル基盤整備が必要となるという考え方です。
その第一歩として、地域幸福度(Well-Being)指標を媒介として、個々の事業と、街づくり全体の戦略の間の好循環を生み出すように検討を進めるという段取りです。
●地域幸福度指標とは、何か
各種統計データによる客観指標と、市民等へのアンケート調査結果を元にした主観指標から構成したものです。デジタル庁と一般社団法人スマートシティ・インスティテュートがとりまとめたものが、2022年7月からベータ版として公開されています。これをLWC指標(※1)と称しています。LWC指標のベーシックな部分は公開されていますが、街ごとに調整することが可能です。
背景となる理論として、マズローの欲求段階モデルや、世界幸福度調査モデル、SDGsなどがあり、それらをミックスして日本に合った幸福度指標としました。
全体は、「①地域生活のWell-being」、「②協調的幸福」、「③ActiveQoL」、「④センシュアス・シティ+寛容性」、「⑤暮らしやすさ」、という5種類の指標(計56因子)から成る大きなモデルです。
たとえばこのうち「①地域生活のWell-being」については、次のような因子があります(説明文は原田による)。
①地域生活のWell-being | |
(幸せ要因) | ダイナミズムと誇り(地域の文化・芸術、賑わいや躍動感) |
生活の利便性(商業・医療・教育・交通機関・公共施設など日々の生活基盤) | |
自然の体感(自然が身近に感じられる) | |
居住空間の快適さ(住居が快適で過ごしやすく満足できている) | |
つながりと感謝(近隣住民に感謝し、良好な関係が維持できている) | |
健康状態(自身は精神的にも身体的にも健康) | |
地域との相性(地域の街並みや風景に愛着を感じる) | |
地域行政への信頼(行政施策へ賛同し、納得している) | |
(不幸せ要因) | 過干渉と不寛容(よそ者に不寛容、干渉が煩わしい) |
生活ルールの秩序(ゴミ出しマナーや騒音など) |
・・・と、これだけあります。
地域で生活する上で、自分がいかに多くの因子から影響を受けているか、を実感します。
逆にいうと、こんなに多くの因子に対して、一つ一つ自分の感じ方をアンケートで回答しなければいけないとなると、けっこうたいへんな作業となります。この反省から、質問数を減らした簡易版のアンケート調査票を使い始めたようです。
下の図はこういうアンケート調査の結果をグラフ化したものの例です(簡易版)。
●運用方針
デジタル庁の方針としては、
- “とにかく始める”、“始めてもらう”。手法自体は、中長期的に活用しながら徐々に確立すればよい
- デジ田Type2/3採択団体(※2)からはじめるが、一つでも多くの自治体・エリアでの活用を目指す
- 自治体の負担感への配慮、ランキングへの活用防止などの方策を講じ、適切に普及する
とにかく、新しい試みは早く現場に出して、意見をもらいながら修正していくというトライ&フェイラーの考え方(あるいはアジァイルの考え方)が基本にあるようです。
この考え方はソフトウェア開発では最近の常識になりつつあります。いろいろな人々(特にステークホルダー)の意見を早めに反映させることができる、という点で「共創」には打って付けです。
健康診断の検査項目と同様で、これらの多数の指標を見ながら、自分の地域にとって今一番優先すべきことは何かを考えることが、大切なことでしょう。アンケート結果のグラフを見ながら、他者と同じ感覚を持つ項目とそうでない項目が判別しやすくなりますから、それを踏まえて次の議論に移ることもできます。地域の住民がその地域の何に幸福を感じ、何を重んじるかを共有した上で、今後の地域をどういう形にしてゆきたいかを議論することが、地域の民主主義の根幹と思います。
緑豊かな自然に幸福感を抱く住民と、便利さと都会の洗練さに幸福感を抱く住民との間で、うまく折り合いがつけばよいのですが。■
※1 Liveable Well-Being City Indicator
※2 「デジタル田園都市国家構想交付金」の中の「デジタル実装タイプ」(2022年度予算400億円)は、デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現を狙い、そのハード/ソフト費用を支援するもの。次のような目的ごとに分かれています。
・他の地域で既に確立されている優良モデルを活用(TYPE1)
・オープンなデータ連携基盤を活用するモデルケース(TYPE2)
・マイナンバーカードの用途開拓(TYPE3)
・マイナンバーカード交付率が高い団体による先行事例構築(マイナンバーカード利用横展開事例創出型)
・「転職なき移住」と地方への人の流れを創出(地方創生テレワーク型)■