無意識の影響

(2023.04.02)
受験、入社のシーズンが一段落して、人生の新たな段階が始まりました。
だいたいこの季節は寒い冬から暖かい春への変わり目ですし、なにより卒業式や入学式に桜の花が咲き誇る風景は印象的で、忘れられません。節目のスタートとして絶好の季節だと思います。

進学の話に絞ると、小中学校の間はあまり意識されませんが、高校以上に進学する際には、どうしても科目のコースが気になります。ほとんどそのコースの選択で、後の人生が決まってしまうことが多いからです。一番大きな枠組みとしては、文系か理系かという類型があります。理系コースに入ると、数学、物理・化学、生物などを中心に勉強しなければならないため、どうしてもそういう科目が得意な人ばかりが進むようなイメージがあります。(それはある程度当たっていますが、途中でその人の傾向が変わることも多々あると聞いています。)

今や、政府も産業界も、理系の人材が足りないと言い、その育成を強化しています。
現に、日本では大学で理工系を専攻する学生がOECD平均より低い(※1)うえに、OECD諸国の多くが理工系学部の学生数を増やしているなか、日本ではほとんど変わっていません。
すでに、文部科学省は2015年に「理工系人材育成戦略」を出して方向付けをしていましたが、いよいよ日本の経済力も科学技術力も低下が顕著になってきたので、若者(および社会人)を理工系にシフトさせて、即戦力を補おうというわけです。3,000億円の基金を活用し、文系学部の多い私大を理系に学部再編するよう促す政策も打ち出しています。
猫も杓子も理工系、という騒ぎですが、議論に大きな穴が空いている気がしてなりません。
それは女性の理系進学についてです。

日本の人口の半分を占める女性が、理工系の職場に少ないという現状があります。それにはいろいろな社会的理由があるのでしょうが、職業選択の以前に、学科選択の問題がありそうです。

内閣府の調査結果(※2)からは次のような点が浮かび上がっています。
女性の4年制大学進学率、理学分野入学者の女性比率などの指標について、次のような傾向がみられました。
・親世代の女性の大卒者率との間に正の相関がみられ、母親の学歴の影響が大きいことがうかがえる
・保護者も理工系を専攻していた割合が高く、生徒の進路について、保護者が理系進学を望んでいると認知している割合が高い
・人口規模が小さいほど低い水準にあり、地域の社会経済状況が女性の進路選択に影響していることがうかがえる

また女性の理系進学について研究している横山広美氏(東大)は、次のような背景を述べています(※3)。
・理工系の職業イメージが男性中心
能力差別(女性は数学が苦手という数学ステレオタイプ)の問題
社会的ジェンダー差別(論理的な議論をするのは女性らしくない)の問題

いずれにせよ、女性の社会進出の話と同様、日本社会の根深い問題が潜んでいるようです。たとえば神事に女性が参加できない場合も今だにあります。
歴史的な経緯もあって、これらを社会からすべて失くすには、まだ少し時間がかかりそうです。
しかし、まず親の世代が意識を変えることで、子供の迷いや後悔は軽減できるのではないかと思います。
家庭や学校での無意識のバイアスに注意するために、こういう動画も公開されています(※4)。保護者たる者、くれぐれも注意しましょう。■

※1 大学学部段階における理工系への入学者割合 日本17%、OECD平均 27%
※2 「女子生徒等の理工系分野への進路選択における地域性についての調査研究」、令和3年度内閣府委託調査
※3 横山広美「なぜ理系に女性が少ないのか」、幻冬舎新書674(2022年11月)
※4 内閣府男女共同参画局「女子生徒等の理工系進路選択を阻害するアンコンシャス・バイアスへの気付きを促す啓発動画」 https://www.youtube.com/watch?v=j97LxeLB-TQ

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