地域の金融機関のがんばり
(2023.03.14)
地方創生に資する金融機関等の『特徴的な取組事例』
https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/kinyu/jirei.html
という地方創生のページがあって、その令和4年度の分が3月13日に公表されました。
この事例集は、金融機関等の地方創生に資する取組のうち、地方公共団体等と連携している事例や、先駆性のある事例などを収集したものです。挙げられた金融機関に対して内閣府特命担当大臣(地方創生担当)による表彰がおこなわれます。
令和4年度は25件が挙がっています。内訳は次のようになっています。
デジタルに関係するもの(11)、金融機能の高度化(6)、観光(4)、防災等(3)、教育・子育て(3)、医療(2)、農林水産(2)、スタートアップ等(1)、不動産等(1)、人材(1)、その他(2)
どの事例も面白いものばかりですが、興味深いものを数点選んでみました。(各取組概要の文章を要約。○は私の個人的意見です。)
「地域中小零細企業へのデジタル化支援」(滋賀銀行)
「紙や電話でのやりとりが多く業務効率化ができていない」、「古いシステムを利用しているため業務が属人化している」、「デジタル化に取り組みたいが人材がいない」といった取引先企業等の課題が浮き彫りとなる一方、ITベンダー等との接点がない中小零細企業は具体的な解決方法を見出しにくい状況です。経営者と日頃接点の多い地域金融機関こそが地域社会のデジタル化支援を行う最適な存在となることができます。
○顧客が困っている案件を銀行の視点からコンサルティングし、ITベンダー(商材)を紹介したり、IT専門人材を紹介したりします。外部からIT専門員を招き、行員で対応しきれない案件をさばきます。銀行はあくまでも顧客とITベンダーとのマッチングや伴走支援の役目を果たします。
「地域の小規模事業者特化型の事業承継支援」(栃木銀行)
営業エリア内の小規模企業や個人事業主に対して、地域のコンサルタントや士業団体、政府系金融機関等と連携し、ワンストップでM&A支援をできる体制を構築し、事業の発展、廃業の抑制、雇用の確保を通じた持続的な地域経済の活性化に取り組んでいます。
○この支援体制を”とちぎ”の結び目とよび、埼玉、群馬、茨城・福島という隣県の金融機関とも連携して、譲渡し・譲受けの企業をマッチングします。地域の関係者が総出で支援することの意義はたいへん大きいと思います。
「ICTを活用した地域農業支援」(伊達信用金庫)
農家の55%以上が65歳以上と高齢化が進み、農作物の収量性も改善が必要でした。そこで農家の収入増をめざして信金による直接的な技術支援に転換しました。信金の中に農業部門の技術士を入れ、直接的な農業指導だけでなく、農業試験場やメーカーとの連携関係を作った結果、農家の収量・品質の向上、省力化が進んでいます。新規就農や事業承継の促進も期待できます。
○信金が直接的な技術指導までやるというのは珍しいケース。もちろん大手銀行にはその発想もないでしょう。小回りがよく、融通がきく組織だからこその成果といえます。
また数年前にはこういう活動も挙がっていました。
「よんなな会」(2018年度)
地域創生に熱心な地方公務員の自由な意見交換の場である「よんなな会」に、第一勧業信組および城南信金の金融ネットワークから有志を募って参加。これを契機に、熱意ある金融機関職員が集まる「ちいきん会」を形成し、全国へ展開。
○これこそ人的ネットワークが拡がって、それが具体的活動につながっていく象徴と見えます。資金や権威が先にあって物事を進めるのではなく、熱意を持つ人がまず動くことで、資金が付いてくるという発想が大切でしょう。
この取組例に登場するのは、各地域の特殊な事情に合わせて最適化されているもの、あるいは一回限りで再現性が少ないものなども含まれているでしょうから、必ずしも他の地域に同様な展開ができるとは限りません。
しかし、毎年、このような多彩な地域振興の取組例が登場するのは、たいへん心強いことだと思います。表彰の常連となっている金融機関もいくつか見られます。
あわせて「金融機関等の地方創生への取組状況に係るモニタリング調査結果」という資料も公表されています(2022年12月)。(https://www.chisou.go.jp/sousei/pdf/2212_research_kinyu.pdf)
こちらは金融機関向けアンケート調査の集計結果です。これを見ると、金融機関の8割以上が、取引先企業から人材ニーズについて相談を受け、7割以上が人材ニーズについて何らかの対応をおこなっているようです。この結果も上の取組事例に示されているさまざまな活動の裏付けになっています。
地域のことをよく知り、その将来を一番心配しているのが地域の金融機関でしょう。彼らがこれからの地域活性化の中核となっていくことに期待しましょう。■