タクシー料金

(2026.02.06)
1月14日、1月28日の2回にわたり内閣府消費者委員会の専門調査会が開催されました。
第90回 公共料金等専門調査会 (2026年1月14日) 東京都特別区・武三地区のタクシー運賃改定について
https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/senmon/090/shiryou/index.html
第91回 公共料金等専門調査会 (2026年1月28日) 東京都特別区・武三地区のタクシー運賃改定について
https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/senmon/091/shiryou/index.html
●公共料金の決まり方
「公共料金」は料金・価格の新規設定や変更にあたって政府が決定、認可等を行うものを指します。
具体的には、
交通料金(国土交通省所管)
電気ガス(経済産業省所管)
通信費(総務省所管)
などがそれにあたります。
[1]によれば、重要度に応じて3レベルに分かれています。具体的な料金の区分は[2]の別紙1、2に記載されています。

図1は認可の流れの違いを示しています。
(1)重要なものは消費者委員会の意見を付して「物価問題に関する関係閣僚会議」[3]にかけます。
(2)その他一定のものはまず消費者庁へ協議してから所管省庁が認可します。
(3)それ以外の公共料金はそれぞれの所管省庁で認可します。
●東京のタクシー料金
今回の対象は「東京都特別区・武三地区に係るタクシー事業者の基本運賃」ですので、認可を所管する国土交通省が消費者庁と協議し、「物価問題に関する関係閣僚会議」に付議されるケースです。
東京都特別区(いわゆる23区)と武三地区(武蔵野市、三鷹市)は東京の中央部に位置し、タクシーの利用率がたいへん高い地域にあたります。
この地域のタクシー料金をどのように改定するかは、消費者物価に与える影響が大きいと見られています。
タクシー運賃の場合、国交省が決めた全国69区域(運賃ブロック)ごとに運賃の上限・下限を設定されています。
個々のタクシー事業者はその運賃幅の範囲で料金を設定し、申請します。上限以下で一定の範囲内であれば自動的に認可される仕組みです。したがって国交省にとっては運賃幅の決め方が匙加減となります。
運賃ブロックの運賃幅自体を変更するのが「運賃改定」で、ある数以上の事業者からの申請によっておこなわれます(※)。
東京特別区・武三地区では、前回(2022年11月)は全体としては14.24%の値上げでした。
今回は3年ぶりに10.14%の値上げが申請されています。
(※)運賃料金適用地域内の運賃改定の申請を行った法人事業者の車両数の割合が5割以上となった場合に運賃改定手続を開始(2024年12月改訂)。
●専門調査会の役割
図1の④⑤の流れで、国土交通省から相談された料金値上げ案について、消費者庁は「消費者基本法」に則って消費者に与える影響を十分に考慮することを求めていて、次の【1】~【3】を確認しています。
かたちとしては消費者庁がさらに内閣府消費者委員会に料金改定案について意見を求めます。
今回の2回の専門調査会もこの趣旨で開催されています。
| 【1】決定過程の透明性の確保 | □ 所管省庁の審議会等における審議過程が公表されているか |
| 【2】消費者参画の機会の確保 | □ パブリック・コメント等の実施により、利用者等の意見を聴取しているか □ 所管省庁の審議会等において、消費者団体等を参画させているか □ 認可等の後、改定内容に関して消費者に分かりやすく丁寧な説明に努めることとしているか |
| 【3】料金の適正性の確保 | □ 法令等に基づいた適切な料金が算出されているか ・ 能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えていないか ・ 不当な便乗値上げとなっていないか ・ 料金の算定に賃上げが適正に見込まれているか □ 料金の算定基準等が公表されているか |
●真剣な討論から
この2回の専門調査会については記録ビデオが公開されています。
専門調査会の委員は上記の消費者庁の観点に沿って、さまざまな角度から質問・意見を出しています。
特に今回は【3】の料金設定が妥当かどうかという点が議論となりました。
コスト算出の根拠がよくわからないという意見や、コスト低減のインセンティブが効かない構造になっているという意見が出ました。いずれも経営学、経済学の専門家からのものです。
実はコスト算出と利益額の設定は国交省の算出ルール[4]があってそれにしたがってサンプルデータの収集と計算がおこなわれています。
しかし今回、国土交通省から出された資料[5]にはその部分の説明が薄く、2回にわたる討論でも委員の皆さんの懸念が払拭できていない模様に感じられました。

タクシー運賃は「総括原価方式」を採ります。すなわち図2に示すように、必要な経費に適正な利潤を加えた総括原価を先に決め、総収入がそれに等しくなるように運賃を値上げします。
いちおう国交省側でも認可にあたり、次のような判断をおこなっています。
(1)事業者から運賃改定の申請を受ける
(2)「標準能率事業者」(原価、サービス、効率性が標準的)の収支が赤字であるかの審査
(3)運賃改定率を算定
この(2)の審査が肝になります。
要するに事業者の経営が苦しいということを国交省が立証してあげるようなものです。
そこに甘さがないかという指摘でしょう。
●すれ違い
このような話のすれ違いは今回の会合に限らず、前回(2022年)のタクシー運賃改定の際にも似た質問が出ていました。
| ”・・・自己資本報酬率のほうで算定される報酬は、実は事業者のもうけそのものなのです。ここについては10%との数字はややざっくりしている印象を受けていて、電力や電気通信で、例えば下二桁までちゃんと出して、それから、算定根拠もオープンにして全産業の自己資本利益率の実績率を使うとか、そのような根拠を明示しております。そして、算定プロセスについても出すような透明化を図っていますので、今後の検討課題として報酬率の算定についても、もう少し表に分かりやすく出てくるような工夫をしていただければと思います。” [7] |
同じ公共料金といっても、電力業界のほうはかなり細かい計算を施しているとのことです。サービスの形態とか事業者の規模の違いはあるでしょうが、消費者委員会としてはタクシー料金についてももう少し工夫の余地があるのではないかと指摘しています。
●認可と意見
難しいのは公共料金を認可するのはあくまでも所管する省庁(ここでは国交省)であり、消費者委員会の役目はそれに消費者の立場から見た意見を付することです。
認可省庁は意見を尊重すればよいだけです。
上のすれ違いも、そのような発言者の立ち位置の差によって生じています。
とは言え、このように消費者委員会(の専門調査会)の議事が公開されて、料金設定について委員からの鋭い指摘があったことが一般人にも見えますので、国交省は常にわかりやすく説明する責任かあるということです。
●新しい波
タクシー業界は保守的な構造をしていると見られがちですが、昨今は大きな変化の波が押し寄せているようです。
まずあれほどタクシー業界の抵抗が強かった「ライドシェア」について、「公共ライドシェア」と「日本版ライドシェア」の2本立てに仕立てて実施しようという動きがあります。
完全に自由競争市場ではなく、既存事業者が間に入って安全性を担保できるかたちを狙っています。
今後、タクシー業界では人手不足が厳しくなる一方、「交通空白」(※)に対応する新しい付加価値を持つサービスも開発されてくるでしょう。
ある意味では交通のイノベーションが次々に起きてきても不思議ではない状況とも言えます。
国交省としても今までの算定基準を、新しく生まれてくるさまざまな業態に適合させてゆかねばなりません。
その基準はなるべくシンプルで、かつ過当な競争を招かず、しかし新しい意欲的な事業者を排除しないものであることが必要です。
認可担当者の腕の見せ所といえます。■
(※)交通路線の廃止などによって、地域住民や来訪者が公共交通機関を使えない状況を指します。2024年に国土交通省内に「交通空白」解消本部が設置され、対策を開始しました。

[1] 第90回公共料金等専門調査会 資料1 公共料金の改定等について(消費者庁提出資料) https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/doc/090_260114_shiryou1.pdf
[2] 公共料金等の新規設定及び変更の取扱いについて(2025年2月14日最終改定) https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/price_measures/utility_charges_003/assets/consumer_partnerships_cms01_20250218_01.pdf
[3] 物価問題に関する関係閣僚会議 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/index/bukka/index.html
[4] 一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可申請の審査基準について(2002年1月17日公示、2024年12月24日改訂) https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/content/000283785.pdf
[5] 第90回 公共料金等専門調査会 資料2 東京のタクシー運賃改定について(国土交通省提出資料) https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/kokyoryokin/doc/090_260114_shiryou2.pdf
[6] 第1回「運賃制度に関するワーキンググループ」(2015年10月23日)資料2 タクシーの運賃制度について https://www.mlit.go.jp/common/001108272.pdf
[7] 第68回 公共料金等専門調査会(2022年9月14日) 議事録 https://www.cao.go.jp/consumer/history/07/kabusoshiki/kokyoryokin/doc/068_220914_gijiroku.pdf
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