中小企業のための救急箱

(2025.12.14)
12月11日に経済産業省(中小企業庁)は「高水温等によるカキへい死被害の影響を受ける事業者への支援を行います」を公表しました。
https://www.meti.go.jp/press/2025/12/20251211002/20251211002.html
10月頃から瀬戸内海で発生しているカキへい死の被害は、漁業の事業者に大きな影響を与えています。経済産業省に限らず、省庁横断で支援策のパッケージを用意しました[1]。
このような海産物や農作物の不作に限らず、台風や風水害、地震などの自然災害が発生すると、その地域の企業、特に体力のとぼしい中小企業や小規模事業者にはとたんに影響が現れます。自身の会社や従業員が被災するだけでなく、取引先も活動を停止しますので、日頃ギリギリの運転資金でやり繰りしている企業にとっては、突然に心臓が止まるくらいの打撃になります。
応急処置は迅速に実行しなければなりません。
◆災害大国日本
この半年間に中小企業庁が災害に被災した中小企業に対する支援を公表したものの一覧表です。
| 7月4日 | 「トカラ列島近海を震源とする地震に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」 |
| 7月29日 | 「令和7年台風第8号に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」 |
| 7月31日 | 「令和7年カムチャツカ半島付近の地震に伴う津波に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」 |
| 8月8日 | 「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」 |
| 8月12日 | 「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います【第2報】」 |
| 8月15日 | 「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います【第3報】」 |
| 8月21日 | 「令和7年8月20日からの大雨に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」 |
| 8月29日 | 「令和7年台風第12号に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」 |
| 9月3日 | 「令和7年9月2日からの大雨に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」 |
| 9月8日 | 「令和7年台風第15号等に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」 |
| 9月9日 | 「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います【第4報】」 |
| 9月16日 | 「令和7年9月12日からの大雨に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」 |
| 9月18日 | 「令和7年9月2日からの大雨に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います【第2報】」 |
| 10月9日 | 「令和7年台風第22号に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」 |
| 11月11日 | 「令和7年8月5日から9月21日までの間の豪雨及び暴風雨による災害が激甚災害として指定されたことに伴い、追加の被災中小企業・小規模事業者対策を講じます」 |
| 11月20日 | 「令和7年11月18日大分市佐賀関の大規模火災に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」 |
| 11月28日 | 「令和7年10月8日から13日までの間の暴風雨による東京都八丈町及び青ヶ島村の区域に係る災害が激甚災害として指定されたことに伴い、追加の被災中小企業・小規模事業者対策を講じます」 |
| 12月9日 | 「令和7年青森県東方沖を震源とする地震に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」 |
| 12月11日 | 「高水温等によるカキへい死被害の影響を受ける事業者への支援を行います」 |

◆熟練の支援策
中小企業庁は半年間でこのくらいの頻度で対策を打ち出していて、ある程度、パッケージ化されてパターンが決まっていると言えます。
上の表で目につく「被災中小企業・小規模事業者支援措置」は前提として「災害救助法」等が適用された地域を対象としています(※)。
内容は表2のように5つの対策がセットになっています。
| 1.特別相談窓口 | 商工組合中央金庫、信用保証協会、商工会議所などに特別相談窓口を設置します。 |
| 2.災害復旧貸付 | 被災した中小企業・小規模事業者を対象に、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫が運転資金又は設備資金を融資する災害復旧貸付を実施します。 |
| 3.信用保証制度の特例(セーフティネット保証4号等) | 災害救助法が適用された地域において、災害の影響により売上高等が減少している中小企業・小規模事業者を対象に、信用保証協会が一般保証とは別枠の限度額で融資額100%を保証するセーフティネット保証4号を適用します。 信用保証協会においてセーフティネット保証4号の事前相談を受け付けます。 |
| 4.既往債務の返済条件緩和 | 日本政策金融公庫、商工組合中央金庫及び信用保証協会に対して、返済猶予等の既往債務の条件変更、貸出手続きの迅速化及び担保徴求の弾力化などについて、被災した中小企業・小規模事業者の実情に応じて対応するよう要請します。 |
| 5.小規模企業共済の災害時貸付 | 災害救助法が適用された地域において被害を受けた小規模企業共済契約者に対し、中小企業基盤整備機構が原則として即日で低利で融資を行う災害時貸付を適用します。 |
◆まず相談
大企業と異なり、中小企業の社長は自らがあちらこちらに動いて打開策を立てなければなりません。従業員のケア、支払いのこと、今後の事業継続についてなどなど、考えなければいけないことは多岐にわたります。
自ら被災して混乱している経営者は、まず第三者に相談して、対策の進め方を冷静に整理することが求められます。
特に企業経営に必要な設備や土地を失っていることが多い中で、さらに新たな事業投資をしなければならないのは、二重の負荷がかかります。既存の債務の軽減と、新規な資金調達の便宜がともに必要となるところです。2~5はそれに対する対策です。
金融機関や商工会議所に臨時に設置される特別相談窓口の役割は重要です。

◆セーフティネット保証とは
セーフティネット保証とは、一般保証とは別枠で最大2億8,000万円を利用できる保証制度です。
次のいずれかに該当し、事業所の所在地を管轄する市町村の認定を受けた中小企業者が対象となります。
1号 大型倒産の発生により影響を受けている
2号 取引先企業のリストラ等の事業活動の制限により影響を受けている
3号 特定地域の災害等により影響を受けている特定業種を営む
4号 特定地域の災害等により影響を受けている
5号 全国的に業況が悪化している業種を営む
6号 金融機関の破綻により資金繰りが悪化している
7号 金融機関の合理化(支店の削減等)により借入が減少している
8号 整理回収機構または産業再生機構に貸付債権が譲渡された再生可能な中小企業者
自然災害は第4号に相当します。
瀬戸内海のカキについては減産によって地域全体の商売がうまくゆかなくなっていますので、第5号指定となりました。
中小企業向けの災害復旧・復興の施策については「中小企業白書」に全体説明が書かれています[3]。
また中小機構も相談窓口や貸付け窓口を案内しています[4]。
おそらく中小企業庁内では全国の地域ごとにこのような関係機関(地方公共団体、金融機関など)のリストが用意されていて、災害救助法で対象地域が指定されると同時に、その地域内の関係機関と連絡を取り合うことになっているものと想像します。
◆経営者としての緊急持ち出し
上のようないろいろな支援策を得るためには、たとえば罹災証明書などの公的な書類が求められ、さらに補助金申請のために実印やマイナンバーカードも必要となります。
着の身着のままで住まいから離れざるを得なかった人は、補助金の申請一つとっても、思うように進まないことがあるでしょう。
防災訓練の中には、こういう経営者として必要な物の緊急持ち出しも含めておく必要があります。■

※ 被災中小企業・小規模事業者支援措置の明確な定義はないようです。2023年頃から災害救助法の適用をトリガーとして支援する際にこの名称が使われるようになりました。
[1] 水産庁、他「高水温等によるカキへい死被害への政策パッケージ」(2025年12月11日) https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/attach/pdf/kaki_youshoku-7.pdf
[2] 経済産業省「令和7年青森県東方沖を震源とする地震に伴う災害に関して被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」(2025年12月9日公表) https://www.meti.go.jp/press/2025/12/20251209003/20251209003.html
[3] 2024年版中小企業白書「第6章 災害からの復旧・復興、強靭化」 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b4_6.html
[4] 独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)「災害対策支援」 https://www.smrj.go.jp/reconstruction/index.html
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