世界の日本食

(2025.12.07)
11月28日に農林水産省から「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和7年)の公表について」が公表されました。https://www.maff.go.jp/j/press/yusyutu_kokusai/kaitaku/251128.html

2006年時点店舗数
欧州約2,000
中東約 100
ロシア約 500
オセアニア約 500~1,000
アジア約6,000~9,000
北米約10,000
南米約1,500
合計約24,000
表1. 2006年時点の海外の日本食レストラン数(推定)([1]より引用)

◆20年間で7倍の増加
この公表記事によれば、海外における日本食レストランの店舗数は、日本食・食文化の普及状況を把握する観点から重要な指標となっています。この調査は、日本食・食文化の海外展開を推進していくに当たって参考とするため、外務省の協力のもと実施しました。

このレストラン調査は2013年から2年おきに実施されていて、今回で7回目となります。それ以前にも2006年頃にはレストラン数の概数が農林水産省の資料等に掲載されています[1](表1)。

今回(2025年)の調査結果を経年で示すと図1のようになります。

図1. 海外の日本食レストラン数([2]より引用)

2006年と比較して2025年調査では181,000店と、実に7.5倍の増加を見ました。
その間に世界ではリーマン・ショック、新型コロナウイルス感染症蔓延があり、国際的な交流や経済的な発展には良くない事柄があったにもかかわらず、この進展は目をみはります。

◆調査対象の中身
ここでこの調査はどのように実施されたかを書き留めておきます。どのような調査であれ、何をどのように計測したかをはっきりさせておかないと、調査結果を読む際に間違いが生じるためです。
海外の調査は外務省が実施し、その集計を農林水産省がおこないました。

調査の店舗数としては、次の①~④のいずれかをカウントしています。
①現地のWEBサイトや電話帳及びガイドブック等で「日本食レストラン」として紹介されている。
②現地で「日本食レストラン協会」のような団体が組織され、これに参加している。
③現地日本人会、日本商工会議所等で「日本食レストラン」として扱われている。
④上記以外にも各在外公館において「日本食レストラン」として認識されている。例えば、ジェトロにおける日本食レストラン数調査結果等。
(注意書き)
・店舗数は、10店舗以上の国・地域を掲載しており、一の位は四捨五入している。このため、上記の合計値と全世界計は一致しない。
・香港及びマカオの店舗数は、中華人民共和国の店舗数に含まれない。
・ウクライナは、前回同様、今回も調査が困難であったことから、現地の状況を踏まえて直近の2021年調査結果を記載。

②~④についてはいちおう第三者、特に日本人の感覚で認識されていますから、日本人の来客を招待しても問題ないレベルと言えます。①については自称ですから、日本食レストランの基準としては甘くなります。

◆変化が大きかった地域
2013年以降では、アジア圏の伸びが著しいことがわかります。優に5倍の増加で、全世界の日本食レストラン数の6割を占めています。
しかし国別で見ると、アジアの中で大きな比率を占める中国がマイナス15,000店であり、実に1/4の店が閉じていることがわかります。
逆にインドネシアは前回6,500店舗からプラス2,500店舗と急拡大中です。
全体を見渡すと、2006年以降、ハイペースで伸長してきた日本食レストラン数が今回(2025年)調査で初めて減少に転じました。
大きな原因は中国における店舗数減少です。
食品の売り先としての中国の存在感はやはり大きいと言わなくてはなりません。

◆変化の理由
この調査では数量の調査だけで、その増減理由までは問いかけていません。
あくまでも類推ですが、次のような理由を思いつきます。
1)その国と日本との経済的な交流の強さ
その地に駐在している日本人が通う店に対してはそのような理由が直結します。あるいは政治的な理由もあります。中国の急減、ブラジルやインドネシアの急増などはその辺に理由がありそうです。
2)その国の経済的状況
異国風のレストランの増減はその国の経済的状況(経済的な余裕があるかどうか)に左右されます。英国、オランダ、ドイツの増加、フランス、イタリアの減少などの理由は、日本との交流の変化というよりは欧州内での経済的状況の違いのように見受けられます。
3)本物志向の広がり
インバウンドによって日本を訪問する外国人が急増しています。日本で”本物”の日本食を味わった人が増えれば、名ばかりの日本食レストランは淘汰されていきます。

このうちどれか一つというわけではなく、混合した理由だろうと思います。

◆「認定」をあきらめて「推奨」
そもそも、今回の農林水産省の調査は、日本の農林・水産物の輸出政策のために実施されました。
農林水産省としては2006年頃から海外の日本食を気にかけており、「海外日本食レストラン推奨有識者会議」を3回開催して、「日本食レストラン推奨計画」を立案しました。
この有識者会議の本来の狙いは日本食の「認定」制度を作って、海外における日本食レストランの品質を格付けして保証しようという点にありました。しかし会議では、認定の基準や責任があいまい、外国文化の排除につながる、などの意見が出て、結果として「推奨」になりました。
この「推奨」を実施する民間の機関としてNPO法人「日本食レストラン海外普及推進機構(JRO)」が翌2007年7月に設立され、人材育成や日本の食材紹介など日本の食文化を国外に発信しています。
2013年には「和食」がユネスコ無形文化遺産登録となり、いっそうの追い風となりました。

高度成長期から2006年に至る時期の米国における料理店経営については、池澤康氏の記事[3]に詳しく書かれています。
この中には農林水産省の認定制度案がワシントンポスト紙に"Sushi Police"という言葉で揶揄されたことも書かれています。

これに懲りつつも、日本食の安全性と正当性を担保したい農林水産省としては、2016年に「海外における日本料理の調理技能の認定に関するガイドライン」を定め、民間団体等が自主的に認定できるようにしました。あくまでも店の質を民間が認定するものという形をとります。

◆観るだけで満腹
しゃれた街にいくとさまざまな海外料理を楽しむことができます。テレビの番組では外国の料理が次々に紹介されていますし、イタリア料理やフランス料理にいたっては、本国のコンテストで最高位をとった日本人シェフが経営する店も多い状況です。
そういうありがたい国に住んでいる割には、いたって保守的な食生活を過ごしている筆者です。■

[1] 農林水産省「海外における日本食レストランの現状について」(2006年11月) https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10368291/www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/easia/e_sesaku/japanese_food/kaigi/01/pdf/data3.pdf (国立国会図書館アーカイブ)
[2] 農林水産省「海外における日本食レストランの概数(推移)」(2025年11月28日) https://www.maff.go.jp/j/press/yusyutu_kokusai/kaitaku/attach/pdf/251128-3.pdf
[3] 池澤康「日本食ブームへの応援歌」(2009.12.17) https://nihonshoku.wordpress.com/ (特に第2章)

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