ショーシャンクの空に

(2025.11.11)
法務省から9月22日付けで、「刑事施設視察委員会の活動状況について(令和6年度)」、「少年院視察委員会の~」、「少年鑑別所視察委員会の~」の3件の公表がありました。
法務省のプレスリリース[1]は情報更新が少なく、取っつきにくいという先入観がありました。久々に見てみると、9月の3件が目を引いたということです。
なお法務省の場合はホームページのインフォメーション[2]のほうが情報が多いという傾向があります。

●施設の定義
ここで刑事施設、少年院、少年鑑別所のそれぞれの定義を書いておきます。素人にとってはふだんなじみがないために、どれも同じような施設に見えてしまいます。(よく知っていると言うと誤解を生みそうですが。)

施設定義
刑事施設刑務所、少年刑務所及び拘置所の総称。
刑務所は主として受刑者を収容し、処遇を行う施設、拘置所は主として刑事裁判が確定していない未決拘禁者を収容する施設です。
少年院家庭裁判所から保護処分として送致された少年(いわゆる非行少年)に対し、その健全な育成を図ることを目的として、矯正教育や社会復帰支援等を行う施設。
すなわち刑事施設と異なり、基本的には教育と社会復帰を目的とした施設です。
少年鑑別所家庭裁判所の求めに応じ、鑑別対象者(いわゆる非行少年)の鑑別を行う施設。
つまり家庭裁判所が審判をおこなう前に、当人の資質や環境の事情を反映した指針を示すことを目的としています。
さらに健全な育成のための支援を含む観護処遇を行うこと、地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助をおこないます。
表1. 施設の定義(法務省ホームページを参考に筆者作成)

●施設の視察委員会とは
刑事施設視察委員会は2006年から施行された「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」にもとづいて設置されました。
また少年院視察委員会は少年法改正によって、同様に少年鑑別所視察委員会は少年鑑別所法改正によってそれぞれ設置が決まりました。ともに2015年6月の施行です。

そもそもは刑務所等の施設職員によって暴力が発生したりしたことをふまえ、施設運営の透明性を高めるためにこれらの視察委員会が設置されました。委員会の委員は第三者の視点で施設運営をチェックする役目があります。

委員には弁護士、医師、地方公共団体職員、地域住民が就き、年数回の委員会が開催される他、現場を視察したり、職員や収容者と面接をおこなったりします。

●2024年度の活動実績
それぞれの委員会の実績を表にまとめます。

視察委員会刑事施設視察委員会少年院視察委員会少年鑑別所視察委員会
設置の根拠刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第7条少年院法第8条少年鑑別所法第7条
対象施設数74(刑務所59、少年刑務所7、拘置所8)42 (うち支所6)52 (うち支所8)
委員会数743744
委員数357 (=4.8人/委員会)175 (=4.7人/委員会)189 (=4.2人/委員会)
会議の開催回数495 (=6.7回/委員会)185 (=5回/委員会)221 (=5.0回/委員会)
視察回数260 (=3.5回/委員会)76 (=2.1回/委員会)126 (=2.9回/委員会)
面接回数652 (=8.8回/委員会)417 (=11.2回/委員会)345 (=7.8回/委員会)
意見数466(うち措置 372) (=6.2件/委員会)277(うち措置205) (=7.4回/委員会)283(うち措置192) (=6.4回/委員会)
表1. 各視察委員会の2024年度活動実績([3][4][5]を元に作成)

●活動実績の傾向
以上を眺めるとだいたい次のように言えます。
各委員会の委員数は4~5名。
開催回数は年5~6回。
現場視察は年2~3回。
面接件数は8~11回。
提出された意見数は委員会あたり6~7件程度。

時間と手間がかかる現場視察と面接を非常勤の4、5名の委員がこなすのはけっこうたいへんだと感じます。
なお委員会の庶務は施設の庶務課が担当していますが、施設側の職員を退出させて、委員だけで議論する時間も確保しているようです。

また「委員会ニュース」を発行している委員会が増えてきているようです。
委員が原稿を作成して、収容者全員に配布される、掲示されるなどによって公開されています。

●委員会体制の課題
日本弁護士連合会はこの委員数では少なすぎるのではないかと指摘しています[6]。
また、この意見書の中には、支所の視察について次のような指摘もあります。
少年院、少年鑑別所にはそれぞれ支所が存在しますが、支所には視察委員会は設置されていません。いずれも本所の視察委員会が担当することになっています。

・支所の場所が遠くて視察や提案書の回収が不自由
少年鑑別所の支所は本所から離れた地点に位置することが多く、限られた委員が定期的に巡回視察することの負担が大きくなっています。しかも正規の会議以外の活動に対して日当や交通費の支給はほとんどない現状です。

・性別への配慮が難しい
一方、少年院の支所の多くは本所に隣接した地に置かれ、多くは女子が入院しています。そのため視察委員会の委員構成も性別に配慮することが必要ですが、もともと委員数が少ない中では委員のやりくりは容易ではありません。

今後も支所の統廃合が進むことは間違いなさそうですから、委員会の担当範囲が拡大していくでしょう。
国会では刑事施設視察委員会の支所の視察問題が取り上げられ[7]、法務大臣は”オンラインテレビ会議の利用も検討”と答弁しましたが、大枠は変更しないようです。

●具体的な意見
少年院視察委員会、少年鑑別所視察委員会から出された意見集を見ると、少年たちが暮らしている生活の様子がうかがわれます。

・夏暑く、冬寒い….全室エアコンは設置されておらず、廊下のエアコンの風を各居室に入れている現状です。今年の酷暑などはどのように過ごしたのでしょうか。
・夕食が17時で早すぎる….早い施設だと16:30からです。翌朝の朝食(7:30)まで空腹が続くようです。食べ盛りの少年にとってはいささか辛いでしょう。
・就寝中も照明がついているので眠れない….夜間照明は保安上必要とされていますが、アイマスク支給で対応するみたいです。暖色系照明など設備の改善は予算上難しいとのこと。
・ノートが自由に使えない….自弁品は1冊のみ居室持ち込みができる。官給品は雑記帳と学習帳を支給しており、学習に必要であればささらに支給している。使用目的に沿っているか内容を密に点検している。
・トイレではトイレットペーパーではなく、ちり紙を使用する….本来の目的以外に流用される可能性があるためとか。
・収容者同士の私語は原則禁止….日常生活を過ごす上で円滑なコミュニケーションがとれないのは問題ですが、矯正施設に共通の規則のようです。無言の行をしている僧侶を思わせます。

少年院に比べると少年鑑別所の生活は多少緩やかなようですが、常に監視がおこなわれるという点では同様です。

●矯正と社会復帰
毎日の事件ニュースを見るたびに、その事件を起こした人間の生活・教育環境にずいぶんと格差があると感じます。特に幼少期に問題家庭に育つと、その後ずっとハンディキャップを抱えてしまいます。
また何不自由のない恵まれた生活を送っていても、たまたまの事件に巻き込まれて、どんどん深みにはまっていくこともあり得ます。
少なくとも未成年のうちは必ず社会復帰して正しい人生を歩むことを信じてあげたいと思います。

筆者にとっていささか遠い世界の話であるため、中途半端で曖昧な考えのままで文章を書いています。物好きな年寄りが窓からちょっと中をのぞいてみた、という程度でしょう。
それでもこの3つの報告書を読んで良かったと思います。

一人一人の収容者にとっては特に何事も起きずに静かに社会に戻る訓練を続けられるというのが望ましい環境だと思います。そのための施設運営です。
残念ながら国家予算の優先度から見ると、この種の施設は後回しになっているのが現状です。意見書の中にも施設の老朽化、予算不足という言葉が頻繁に現れます。

「ショーシャンクの空に」(1994年)をはじめ、刑務所や矯正施設を舞台にした映画やドラマは数多いですが、そのようなドラマティックなシナリオは現場にとってまったく不必要です。■

[1] 法務省令和7年のプレスリリース https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/press_r7.html
[2] 法務省インフォメーション https://www.moj.go.jp/index.html
[3] 刑事施設視察委員会の活動状況について(2025年9月22日) https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei08_00184.html
[4] 少年院視察委員会の活動状況について(2025年9月22日) https://www.moj.go.jp/kyousei1/_00007.html
[5] 少年鑑別所視察委員会の活動状況について(2025年9月22日) https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei08_00185.html
[6] 日弁連「少年院・少年鑑別所の視察委員会及び在院者等の処遇の改善に関する意見書」(2021年7月16日) https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/opinion/2021/210716.pdf
[7] 第217回国会 衆議院法務委員会第4号(2025年3月18日)会議録(柴田委員質問) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000421720250318004.htm

Follow me!