信じる者は

(2025.07.21)
7月9日に、文化庁より令和6年「不活動宗教法人の状況等に関する調査」結果が公表されました。
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/94240801.html

●今、なぜ調査するか
「不活動宗教法人」とはその名の通り、実際の宗教活動をしていない法人のことです。
行政からみたとき、すべての法人組織はその設立から終了まできちんとした管理がおこなわれていなければなりませんが、実際には”名前だけ残っている”法人も多いとされます。

株式会社の場合は12年以上、登記がされていなければ(たとえば役員がまったく変更されていないとか)休眠会社とみなされます。
それに対して宗教法人にはそのような条件はありません。

従来から宗教団体を隠れ蓑とした脱税事件が発生するなど、宗教団体の活動について厳しい目が向けられていました。
実体のない法人が乗っ取られて悪用されるだけでなく、宗教法人には個人の信条がかかわるために法が介入しにくい面もあり、また税金が免除されるという特典まで付いています。ここに目をつける者も多いわけです。
そして2022年に元首相が襲撃されて亡くなるという衝撃的な事件が起こり、その背景に特定の宗教団体の献金問題があったということで日本全体が大騒ぎになりました。
これがきっかけになり、宗教法人の実態、特に不正の温床になりやすい不活動法人を調べ直すことになりました。
宗教法人を管轄する文化庁は2023年から不活動認定の基準を明確化して調査を開始しました。

●不活動の条件
文化庁が示している条件[2]は次の通りです。
・連絡がとれないとき
・事務所備付け書類が理由なく2年連続して提出されないとき
・所轄庁の調査結果により判断できるとき
・関係機関からの情報提供等により判断できるとき
・法人からの申出等があったとき

そしてこの条件をもとに都道府県の管轄部署に調査を依頼しました[3]。その結果、条件に該当する宗教法人に対して積極的に解散命令の請求をおこなうとしています。
さらに法人を解散するにあたっては財産の清算も必要となります。
地方公共団体がこのような処理をおこなうには弁護士費用含めてさまざまな経費が発生しますから、文化庁は1都道府県あたり毎年約1千万円を補助しています。

●不活動の実態
図1に不活動宗教法人としてのカウントの推移を示します。
2022年度までは横ばいかやや減少していましたが、対策事業が開始されて以降は条件を見直して新たに該当する法人が増えたと見られます。

図1. 不活動宗教法人数の推移([1][3]を元に筆者作成)

図2にそのような不活動宗教法人に対する対策数を示します。
対策には解散命令、任意解散、合併、その他がありますが、全体としては年200法人程度です。
該当する不活動法人数に比べて対策が追いつかない状況がうかがわれます。

今のペースでは不活動宗教法人がなくなるまで数十年はかかりそうです。その間、不活動宗教法人が犯罪等の温床となり続けることになりますが、さてどうしたものでしょう。

図2. 不活動宗教法人への対策数([1]を元に筆者作成)

●わが国の宗教
「宗教年鑑」という文化庁が毎年発行している白書のような資料があります。そこにはわが国の宗教法人数や信者数の統計が出ています。
最新(2023年12月末時点)の宗教法人数は図3の通りです。
文化庁が把握している宗教法人数は178,530法人で、神道系、仏教系でほぼ半々、全体の9割を占めています。

図3. 宗教法人数([4]より引用)

信者数は図4の通りです。
信者総数は1億7200万人で、総人口を超えています。これは各法人ごとに信者の数え方が異なるために生じていると考えられます。ある個人が神社の氏子であるとともに、寺の檀家になっていることは珍しいことではありません。
信者数でも神社系と仏教系を合わせてほぼ95%、キリスト教系は1%未満です。

図4. 信者数([4]より引用)

毎年の初詣に神社へ行き、葬式は仏式でおこない、結婚式はちゃっかりキリスト教式におこない、クリスマスは何の日かわからないままにケーキを食べている日本人にとって、宗教を真正面から考える機会は今までなかったわけです。
人口減少とともに宗教法人も次々に”不活動”となっていくことは確かです。見捨てられた土地や廃屋と同様、放置しておくと思わぬ問題が生じる恐れがあります。■

[1] 文化庁 令和6年「不活動宗教法人の状況等に関する調査」結果 https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/94240801_01.pdf
[2] 文化庁「不活動宗教法人の判断に関する基準」(2023年3月31日) https://www.bunka.go.jp/seisaku/shukyohojin/pdf/93862801_01.pdf
[3] 文化庁「不活動宗教法人対策の推進について」(2023年4月26日)、都道府県宗教法人事務担当部課長会議 https://www.bunka.go.jp/seisaku/shukyohojin/pdf/93880401_01.pdf
[4] 文化庁「宗教年鑑」 https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/hakusho_nenjihokokusho/shukyo_nenkan/index.html

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