創る人、観る人
(2024.12.31)
12月25日に文化庁より、「ブルーレイディスクの機器・媒体に係る私的録画補償金の額の認可について」という発表がありました[1]。
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/94151301.html
ブルーレイのようなデジタルで記録する機器と、その媒体(ブルーレイディスクやDVD)に対して、購入時に1回補償金を消費者が支払うように定めるものです。
●アナログからデジタルへの変化
著作権法第30条では「私的使用のための複製」が認められています。
ここで私的使用とは個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することと定義されています。
たしかに従来の技術であれば、この私的使用のための複製によって大きな影響は出ませんでした。
紙の文書をコピー機で複写する、
録音したカセットテープを他のテープにコピーする、
といった類の行為は”アナログ”的複写として暗黙のうちに認められてきました。
何回も同じ複写を繰り返すと、紙文書の鮮明度はどんどん下がり、カセットテープの音質も悪くなってゆきます。
しかし”デジタル”の機器ではそのような劣化は起きません。0と1の信号をコピーするので、原理的に劣化(情報の欠落や混入)はありません。無限回の正確な複写ができることになります。
●著作権法の理念
そもそも著作権法は、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」を目的としています。
第30条が一人歩きしてデジタル複写がはびこると、音楽の作曲者や演奏者、レコード会社は本来手にすることができるはずの利益を得られなくなります。
それが問題です。
●まず音楽の録音補償
すでに1993年6月から、私的録音に関する補償金制度が発足しています[2]。
海外では当時、ドイツ、アメリカ等で補償制度が作られていました。
日本でもこの動きに対応して、1992年の第125回臨時国会にて著作権法一部改正法案が全会一致で採択され、翌1993年6月1日から実施が開始されました。
この補償制度の仕組みは図1に示す通りです。
図の上半分が従来の形です。利用者からクリエーターへの支払いはありませんでした。
図の下半分の補償制度では、デジタル機器やメディアのメーカーが販売価格に補償金分を上乗せして、売上の一部を指定管理団体を通じてクリエーターに還元します。利用者は機器やメディアの価格が少し上がったくらいの感覚ですみますし、クリエーターは機器やメディアの流通量に応じた補償金を得られるという仕組みです。
●20年たってやっと録画補償
2005年頃、ハードディスクへの録音(iPod等)が増加してきた背景から、補償制度の見直し議論が出ていたようです[3]。
そして2022年にデジタル録画に対しても補償金制度ができました(実施は2025年4月1日より)。
対象となる機器はブルーレイディスクの機器・媒体です。
機器に対しては1台当たり182円(税抜)、
媒体に対しては記録媒体の基準価格に1%を乗じて得た額、
をそれぞれ補償金額としています。
しかし現実の技術はさらに進み、ネットワーク経由でのストリーミング配信のようなサービス形態が主流になっています。
さらにやっかいなのは国際的な配信の場合で、著作権の複製や補償という概念や法律が国ごとに異なります。
このような形になると、販売時点で1回だけの補償では”取れるところしか取らない”というアンバランスかつ不公平な状況になってくる気がします。
●指定管理団体とは
ここで補償金を集めるめんどうな仕事をするのが指定管理団体で、「一般社団法人私的録音補償金管理協会」(sarah)[4]が私的録音にかかわる補償金業務を行う団体としての文化庁指定を受けました。
今回、文化庁から録画補償についても指定を受けたので、団体名を「一般社団法人私的録音録画補償金管理協会」に変更しています。
気になる補償金の分配については、図2に示すようになっています。
●著作権と技術進展
上で見たように、録音技術、録画技術にデジタル化の波が押し寄せ、さらにネットワーク技術によって、国の境界も楽々と乗り換えていく時勢です。
今や著作権の概念も危うくなっている時勢です。
●メディアの盛衰
戦前から2023年に至る音楽ソフトウェアの生産数量を一覧表にしたものがあります[5]。
アナログディスク(いわゆるレコード)の数量は1976年に約2億枚に達した後、減少を続け、ほとんど消滅しかけていましたが、2010年以降は不思議にも増加して260万枚に復活しています。
アナログディスクの音質、希少性に魅了される人はまだたくさんいるということでしょう。
少なくとも個人の趣味の領域では、アナログの世界は生き残るでしょう。
●行く年、来る年
年末、大晦日。
以前ならばNHKの紅白歌合戦を家族揃ってみるといった風景が思い出されます。今年はどうでしょうか。
気になるTV番組を録画して、後で視聴するといった形態は当たり前になっています。それに対して著作権の議論は追いついているかどうか。
思えば、アナログレコードから始まって、CD、DVD、ブルーレイ等のメディア、そしてネットワーク経由のストリーミングに至って、クリエーターの方々にとって幸せになったかどうか。
2024年は元旦から災害のニュースが出ました。来年はよい年であることを祈ります。■
[1] 文化庁「ブルーレイディスクの機器・媒体に係る私的録画補償金の額の認可について」 https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/94151301.html
[2] sarahの事業について http://www.sarah.or.jp/
[3] 文化審議会著作権分科会(第14回)(2005年1月24日)議事録 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/010/05012501.htm
[4] 一般社団法人私的録音録画補償金管理協会(Society for the Administration of Remuneration for Audio and Video Home Recording: sarah)
日本音楽著作権協会(JASRAC)、日本レコード協会(RIAJ)、NHKはじめ放送会社等が会員になっています。
[5] 日本レコード協会 音楽ソフト種類別生産数量推移
https://www.riaj.or.jp/g/data/annual/ms_n.html