原っぱへの回帰?
(2024.07.06)
7月3日に、国土交通省より「土地政策研究会 中間とりまとめ~空き地等の利用転換による有効活用と適正管理を推進~」が公開されました。
(https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo02_hh_000001_00087.html)
土地政策研究会は2022年からこれまで7回の議論を重ね、課題の整理と施策の方針を中間報告の形でまとめました。農地の荒廃問題は以前よりありましたが、ここでいう空き地は主として宅地を指します。下の概要に手際よく要点がまとめられています。
●中間報告の骨子
1.土地を巡る現状と課題
空き地面積がどんどん増えているのに対して、土地利用の需要は不足、そのため草木の繁茂・越境、害虫・害獣発生、ごみ等の投棄、災害の懸念等の問題が増えている。
2.対策の視点・方向性
・他用途での利活用を進める、また低コストで管理を継続する
・利用見込みがない宅地の農園・菜園、緑地等へ利用転換
・空き地等の発生状況や利活用の意向把握
3.具体的施策
・空き地等の利活用・管理の信用力ある担い手の確保、
・空き地等の農園・菜園、緑地等への計画的な利用転換
・土地の適正管理、災害や環境悪化の防止に向けた新たな方策
●いったん太ってしまうとダイエットは辛い
振り返ると、昭和の時代には、日本列島改造論とか都市中心部の地上げとかが話題になり、土地開発を巡って巨額の資金が動いて、土地の風景が大きく変わりました。
経済が拡大している間はよかったのでしょうが、いったん縮小に変わると、この土地の問題が一気に露わになりました。拡大期に無理をして開発した宅地が、水害や土砂崩れといった災害の危険性を内在させている例も見られます。
土地が私有財産である以上、法律で制約できることは限られています。かつて宅地を稀少財として取得・保有することを促してきた制度が、今や「負動産」化を加速させる方向に働いていると見えます。
●宅地の状況データ
表1に宅地面積がこの半世紀近くの間にどのくらい増加したか、表2に住宅数(一戸建て、集合住宅の戸数)がどれだけ変化したかを示します。
2023年の世帯数5,664万世帯(※3)は、実住宅数にほぼ符合しています。
調査年 | 1975年 | 2020年 | 比 |
宅地面積 | 124万ha | 197万ha | 1.5倍 |
調査年 | 1978年 | 2023年 | 比 |
総住宅数 | 3,545万戸 | 6502万戸 | 1.8倍 |
空き家数 | 268万戸 | 900万戸 | 3.4倍 |
実住宅数 | 3277万戸 | 5602万戸 | 1.7倍 |
●誰の土地?
土地所有の問題として、そもそも誰が所有者か分からないという問題や、登記上の持ち主と連絡が取れないという問題が出現しています(※4)。さらに登記の名義と実際の所有者(固定資産税を払う人)が同じでないとか、所有者の法人が解散してしまった場合とか、いろいろな事情によって空き地と同じく、問題が発生しています。宅地197万haのうち、所有者不明の土地は約14%と推測(※5)されていますので、約27万haが空き地・空き家の面積と解釈してよいでしょう。これは神奈川県の面積よりも大きい数値です。
土地を有効活用したい自治体にとっては、所有者不明地は価値を生み出さない(固定資産税が入らない、ビジネスが生じない)ばかりか、処理にわざわざ税金を使わなければならない「負動産」になります。
●応急処置を始めたが・・・
国としても2017年頃からこの問題に省庁横断的に取り組み始めました(※6)。そこで土地登記、相続の制度を見直して法改正も進めています。国の取組みを政府広報でもわかりやすく解説しています(※7)。
しかし問題が顕著になり始めてからの対応なので、これからの問題発生は抑えられるとしても、以前からの問題箇所はなかなか減らないままに推移しています。当面の出血は止めたが、九州全域の面積に匹敵する所有者不明土地(山林を含む)はそのままになっています。
●提案は妥当、でも苦手
土地政策研究会の中間報告では2つのポイントがあると読みました。第一は情報システム化です。不動産IDの整備とオープンアクセスを進めることによって、登記情報はじめ複数の行政データを一覧化できますから、不明土地に対する行政の執行がスムーズになることが期待できます。
第二は空き地利用を進めるために民間の力を借りる点です。土地利用に関するノウハウを持つ組織(NPO等)を育成したり、資金調達を支援することを勧めています。
しかし(個人的に)この中間報告の提案内容が微温的と感じられるのはなぜでしょうか。上の2つのポイントが、いずれもこれまでの国が苦手としてきた領域だからではないかと考えます。
国のDX化がそもそも規模と複雑さの両面で難問であるだけでなく、データを突合させると、初めて露わになる欠陥もありそうです。マイナンバーカードの利用にあたって、さまざまなトラブルが報道されているのを見ると、大きなリスクを孕んでいます。また空き地利用に長けた民間組織を育成するには長い時間がかかるだけでなく、成長するためのビジネスモデルも必要です。そこは公的機関が最も不得意なところであり、腕のよいプロデューサーが求められます。
●神戸市の体験
高度成長期の大規模ニュータウン開発、その後の人口減少を経て、空き家対策に迫られた神戸市の事例が興味深いです(※8)。空き家の活用相談窓口を作る、空き家おこし協力隊を組織する、また隣接宅地を統合することを支援する等の対策を実施しています。このような具体例は他の地域でも参考になるでしょう。
●原っぱで草サッカー?
この土地政策研究会の委員の方々からの意見は傾聴に値します。土地の話だけでなく、地域コミュニティや農林業からの知見は、空き地問題に多様な解釈を与えてくれます。空き地というテーマから、まだまだ考えなければいけない課題が芋づる式に現れてくるでしょう。
昭和時代にあちこちにあった原っぱで草野球をやっていた風景がまた復活するのでしょうか(今どきならば草サッカーか)。しかし「空き地には壊れた太陽光パネルばかり」とはなってほしくないです。■
※1 令和6年版土地白書
※2 令和5年住宅・土地統計調査結果速報
※3 日本の世帯数の将来推計(全国推計)(令和6(2024)年推計)
※4 所有者不明土地問題研究会最終報告概要(一般財団法人国土計画協会、2017年12月13日)
※5 所有者不明土地問題研究会第3回・資料1(2017年10月26日)
※6 内閣官房「所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議」(2018年1月~)
※7 「なくそう、所有者不明土地!」 https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202203/2.html
※8 第5回土地政策研究会・資料4(2024年3月11日)