鉄塔の安全
(2023.06.10)
6月5日に、経産省にて第18回「産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 電気設備自然災害等対策ワーキンググループ」が開催されました。
(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/denki_setsubi/018.html)
このワーキンググループ(WG)は2014年初めに設置され、”自然災害等を広く対象として現在の電気設備及び電力システムの耐性を評価し、自然災害に強い電気設備及び電力システムの在り方について検討を行う他、大規模地震発生時の電気火災を最小化する対策を検討する”とあります(※1)。
2014年時点で想定していた自然災害として、次のようなものが挙げられていました。
① 南海トラフ巨大地震及び津波、
② 首都直下地震及び津波、
③ 集中豪雨等(大規模地滑り等を含む。)
④ 暴風(竜巻、台風等)、⑤大規模火山噴火、⑥太陽フレアに伴う磁気嵐、⑦サイバー攻撃
①~③が特に危険視されているのは、東日本大震災(2011年)の記憶がまだ新しい頃だったためと思われます。
当然ながら、このときにはCOVID-19のような感染症はまったく懸念されていませんでした。感染症による直接的な影響はないでしょうが、緊急対応すべき技術者が出動できないという人的な課題はあるかもしれません。
第18回の討論資料には最近の事例がいくつか掲載されています。
●電線鉄塔の倒壊
北海道での鉄塔倒壊の件(2022年12月)。
観測史上1位の降雪量を記録したような、まれな気象条件のため、想定以上の雪の重みで鉄塔の足が折れ、その後に電線に引っ張られて鉄塔全体が倒れたという経過でした。
普通の状況では耐えられる設計だったのですが、鉄塔間の高低差のために、電線の着雪量の差が生じ、張力がアンバランスになったことが遠因になったということです。
対策としては、昔の設計基準で建てられた鉄塔を中心に、前後の鉄塔と高低差がある、着雪リスクの高い場所、などの条件を満たす鉄塔に、電線捩れ防止ダンパを取り付けることになりました。
実は今回以前にも雪による鉄塔倒壊事故はけっこう発生しており、1980年12月に宮城県・福島県で62基、1981年1月に富山県で3基、1986年3月に神奈川県で8基も倒壊して、数十万戸の停電が発生しました。これを受けて、1987年には異常着雪のリスクが高い個所への対応を電気事業法による通達として出しています。
強風に吹きさらされる電線に付着する雪は予想外の重みになるということでしょう。
●風力発電タワーの倒壊
2023年3月に青森県六ヶ所村の風力発電タワー1基(建設後約20年)が途中で折損したという事故です。
当時、西風8~12m/秒程度の風で、特に異常気象ではなかったようです。
原因はタワー建設時の溶接部の錆と亀裂でした。
風車タワーは3つの中空の管を縦に溶接した構造です。ストローを縦にくっつけたような形です。そのため管の上下接合部で微妙なズレがあると、溶接の偏りが生まれ、そこから亀裂と錆が発生する可能性があります。
倒壊したタワーも定期点検がおこなわれていましたが、溶接部の錆は特に注目されず、補修もおこなわれていませんでした。
海沿いの風力発電では、常に強い潮風にさらされているために、金属疲労と錆には要注意ということです。
当面は緊急点検として360°カメラによる内部撮影を試行しています。また倒壊前に異常な振動発生も検知されているので、この振動の発生をアラームとして使用する予定です。
現在の電気事業法にもとづく届出書には、「緊急連絡先」は記載事項になっていません。今回の事故のような場合に、業者に連絡ができなかったというのんきな話があります。急きょ、記載事項追加の対策を講じるそうです。
●幸運にすぎない
以上で取り上げた2つの事例は、いずれも大きな倒壊事故でしたが、さいわい人口密集地ではなく、人的被害はありませんでした。しかし、日本ではこのような大型設備が居住地域に接していることも多いので、けっして安心はできません。
監督省庁と運用業者には、ていねいな点検と補修を期待します。■
※1 第1回(2014年1月22日)資料1 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/denki_setsubi/pdf/001_01_00.pdf