原子力分野の人材

(2023.06.07)
6月2日に、文科省で原子力科学技術委員会「原子力研究開発・基盤・人材作業部会」(第16回)が開催されました。
(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/100/shiryo/1422932_00017.htm)

正確に言うと、この部会は「科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会」の「原子力科学技術委員会」における作業部会に位置付けられています。部会の目的はその名前通り、”原子力分野における研究開発、基盤、人材育成に関する課題や在り方等について一体的・総合的に調査検討を行う”ことにあります。

●学生の状況
2011年3月の福島第一原子力発電所の事故以来、日本において原子力工学は厳しい立場に置かれています。GXの追い風はあるものの、もともと自然災害の発生が多い日本の国土に、原子力発電所が設置されていることに、国民は微妙な感情を抱かざるを得ません。
当然ながら、原子力工学を勉強して技術を支えていこうという学生も減りつつあります。
下図は大学・大学院の原子力関係学科の入学者数の推移です。1992年をピークとして大きく減員していることがわかります。
ただしこの数値は「原子力」「量子」の名称を持つ学科を対象に集計しており、それらの学科が大幅に減少したことが影響しているようです(※1)。その後、2010年までは上昇傾向に戻りましたが、2011年を境にまた減少傾向に入りました。以後、なんとか横ばいを維持しているといった状況です。

●今後の見通し
※1の報告書では学生の採用状況も調査しています。それによると、原子力エネルギー関連の企業では継続的な採用をおこなっているという結果が得られています。またプラントメーカーや中小企業では採用の意欲は高い傾向が見られています。一定数の雇用市場は維持されていると考えてよいでしょう。
ただ、原子力発電所が多く建設される予定はなく、一気に人材不足が起きる可能性は低そうです。ただ懸念は、技術を生かせる現場が減っているため、技術やノウハウの継承が難しくなりつつあることです。
対照的に、米国の大学では原子力工学の学位取得者数が最高レベルになっているそうです(※2)。

●学問分野
最近、研究計画・評価分科会の下にある「核融合科学技術委員会」では”核融合炉工学は原子力工学を含む部分が大きいため、クロスカッティングした育成をしてはどうか”という意見も出されています(※2)。原子力以外の分野(機械や電気)との人材交流も検討テーマに挙がっています。これらがうまく進むことによって、就職先の拡大人材流動化も期待することができそうです。■

※1 内閣府委託・エム・アール・アイリサーチアソシエイツ「今後の原子力分野の人材の確保及び育成に向けた基盤的調査 報告書」(2021年3月31日) https://wwwa.cao.go.jp/oaep/dl/search_houkoku2021.pdf
※2 "ORISE report shows overall number of nuclear engineering degrees increases to highest level since 2016", Oak Ridge Institute, Feburary 2,2021
※3 核融合科学技術委員会 原型炉開発総合戦略タスクフォース(第29回)(2023年5月30日)資料4-2「核融合人材育成の方策について」 https://www.mext.go.jp/content/20230530_mxt-kaisen_000030140_7.pdf

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