消費者基本計画

(2023.06.12)
6月8日に、内閣府の消費者委員会本会議(第404回)が開催されました。
(https://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2023/404/shiryou/index.html)

この本会議は2部構成になっており、第1部は「消費者基本計画」工程表の改定案の審議、第2部は消費者団体のヒアリングとなっています。
通常の審議は、淡々とした説明と質疑応答があり、ほぼ異議なしという結論で終わることが多いものです。この本会議も基本的にはその流れで討議が進みました。
しかしその議論内容は消費者が直接関わる事柄も多く、それに対応した工程表(具体的な施策目標)の見直しは気にかかるものです。また第2部では3つの特色ある消費者団体をヒアリングしており、それぞれが生活に密着した活動をおこなっている点に興味が沸きます。

そのため、消費者委員会本会議(第404回)の議論内容を、複数回に分けて、少し詳しく書きたいと思います。

まず第1部の「消費者基本計画」工程表改定案についてです。

●消費者基本計画とその工程表
基本計画は消費者政策に関する5か年計画です。現在は第4期と呼ばれます(2020~2024年度)。
ちょうどCOVID-19の流行によって「新しい生活様式」が実践されるようになり、消費生活が短期間にかなり変化しました。それに合わせて基本計画も改定されています(2021年6月)。
工程表は消費者基本計画に基づき、消費者政策を検証可能な形で体系的・包括的に推進するための具体的な施策計画です。工程表は毎年度改定されるものです。
今年度の改定では、計画の推進にKPI(重要業績評価指標)を追加したこと、重点施策をまとめたこと(※1)、初めてロジックモデルを用いたことなどが新しい点です。
第395回(3月28日)に改定案を諮り、そのときに出された意見に対する修正案を今回(第404回)再提出したものです。前回の指摘を受けて、ロジックモデル(※2)の内容を公表しました。

●主な質疑応答

  • パブコメではロジックモデルは添付されていなかったので、行間を読むのに苦労した。今後、このロジックモデルをどのように扱っていくか。(回答)今回、初めて作成した。今後、直しながら議論を進めたい。パブコメに添付するかどうかは検討が必要。まずは委員会に提示してご意見をいただく。
  • 社会の変化に柔軟に対応できる計画が望ましい。(回答)デジタル化のスピードは著しい。その中で消費者政策も変化していく。重点項目に含まれていない事柄についても、消費者白書のような文書でも触れてゆきたい。
  • パブコメにはコーデックス規格との整合性等(重点項目5)に関するものが多い。「加工食品の原料原産地表示制度」、「遺伝子組換え食品表示制度」等。消費者庁の対応はどうか。食品輸出も関わるので、農水省等との議論も必要ではないか。(回答)わかりやすく、かつ国際規格と整合をとれる制度作りの議論をこれから始めたい。

●KPI設定の難しさ
政策そのものを評価することはけっこう難しいことです。それに関する情報提供サイトが開かれているくらいです(※3)。政策の専門家(研究者、行政の担当者)も手探り状態といってよいでしょう。
比較的わかりやすい例として、今回の「重点項目9.食品ロスの削減の推進」のKPIを見てみます。
直接的な成果(アウトプット)目標は:

  • 食品ロス削減推進表彰の応募件数【100 件/毎年度】
  • 川柳コンテストの応募件数【10,000 件/毎年度】
  • 食品ロス削減特設サイトのアクセス数【2,000,000 回/毎年度】
  • 食品ロス削減推進サポーターの認定数【100 人/毎年度】
  • 商慣習の見直し等に取り組む事業者数

実際の施策は20項目近くありますが、実際に「測定できる活動」として5項目を挙げています。
さらに社会的影響(アウトカム)は「食品ロス発生量(万トン)」を現行より抑えることにあります(2030年度目標:家庭系216万トン、事業系273万トン)。
すなわちアウトプット指標5つを毎年度測定することにより、アウトカム目標に近づいているかを確認しようとするものです。
この間には、消費者庁で考察した因果関係が想定されています(図)。

シンプルに入力と出力の関係でとらえるロジックモデルでは、現実に起こりうる隠れた因果関係(業界内の競争関係、ゼロサム問題、人間関係など複雑で陽に見えない関係)を思い切って省略しています。もちろん政策によって、そのような”小さな雑音は全体へ与える影響は少ないと言えなくはありません。
しかし、うまく目標達成に至らなかった場合(政策ではうまくゆかないことのほうが多い)に、その原因解明は複雑でやっかいなものになりがちです。
政策は常に人や社会に影響を与えます。したがって実験室での効果測定のようには簡単ではないのです。しかし国民は”投資対効果”の説明を求めます。理想と現実の世界の橋渡しをしてくれるのがEBPM(※4)ではないかと期待しているのですが。■

※1 基本計画では「消費者被害の防止」、「消費者による公正かつ持続可能な社会への参画等を通じた経済・社会構造の変革促進」、「「新しい生活様式」の実践その他多様な課題への機動的・集中的な対応」、「消費者教育の推進及び消費者への情報提供の実施」、「消費者行政を推進するための体制整備」の5つを重点施策として掲げている。
※2 「施策の論理的な構造」のこと。施策がその目的を達成するまでの論理的な因果関係を明示したもの。前回(第395回)にはロジックモデル自体の説明はおこなわれなかった。
※3 政策評価ポータルサイト https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/seisaku_n/portal/index.html
※4 Evidence-based Policy Making. (エビデンスに基づく政策形成)

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