求人倍率
(2023.05.10)
4月28日に厚労省より「一般職業紹介状況(令和5年3月分及び令和4年度分)」の発表がありました。
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32763.html)
厚労省では、公共職業安定所(ハローワーク)における求人、求職、就職の状況をとりまとめ、求人倍率などの指標を毎月公表しています。
●言葉の定義
”なんとか倍率”の定義を書きますと、次のようになります。
- 「新規~」とはその月に寄せられた求職と求人の数
- 「有効~」とは2ヶ月間(求職・求人の有効期間)に寄せられた数(当月分+前月からの繰越分)
それぞれ求人数/求職数を計算したものが新規求人倍率、有効求人倍率となります。当然、この倍率が1より大きければ就職が容易、1より小さければ就職難という意味になります。
なお注意すべきは、これらの指標はあくまでもハローワークに申請されたものを計算していますので、ハローワークを通さない民間の就職斡旋の数は入っていないという点です。
●直近の状況
3月のポイントは:
- 3月の有効求人倍率は1.32倍で、前月に比べて0.02ポイント低下
- 3月の新規求人倍率は2.29倍で、前月に比べて0.03ポイント低下
- 2022年度の平均の有効求人倍率は1.31倍で、2021年度に比べて0.15ポイント上昇
●時期的な要因をならす
この他、「季節調整値」という用語も使われます。たとえば農林業のように季節によって人が大きく増減する職業を含めて、2ヶ月間の変動を見ても経済を正しく把握できません。そこで特殊な方法で季節変動のパターンを算出して、原数値を補正します。この補正値を季節調整値とよびます。
下の図は長期時系列表のデータ(※1)を元に、「有効求人倍率」の原数値と、季節調整値を重ねたものです(2019年1月~2023年3月)。冬とか夏の時期のデコボコが平滑化していることが見えると思います。
●2020年の求人の落ち込み
さかのぼると、やはり2020年は多くの県で有効求人倍率が1を下回っていました。つまり求職者に比べて募集する側の数が少なかったという意味です。
それから考えると、COVID-19下の2020年の状況がいかに悪く、そこから2022年から2023年に入ってからは少し回復してきたと見ることができます。
●地域の差
3月の有効求人倍率を県別に見てみると、最高が福井県の1.89、最低が神奈川県の1.09、規模の大きい東京都は1.18となっています。
東京都、福井県、沖縄県の3つの地域を取り出して、COVID-19禍の影響を見てみました。2020年に入ると同時に有効求人倍率は急激に低下しましたが、その後、福井県の回復はやや早かったようです。東京都や沖縄県は2022年になってから、ようやく倍率が1を越えるようになりました。
このように見ると、全国で集計すると2020年頃でも求人倍率が1を割ることはなく、まあまあのように感じるかもしれませんが、地域別に見ると深刻な状況だったことが浮かび上がります。
求人倍率は分子に求人数、分母に求職者数がきますので、分母が小さい場合にも求人倍率は高めに出ます。もともと労働力人口が小さい地域では、求人倍率は高めになる可能性があります。
下図は都道府県別の労働人口数(※2)と求人倍率の分布図です。最も求人倍率が低下していた2020年12月時点を選んで図示しています。東京や神奈川など労働力人口が大きい地域は、限られた求人を多くの求職者で競争する形となっています。逆に労働力人口が小さい県は東京などに比べて倍率が高めに出ています。
●産業別の差
各都道府県の労働局からも毎月の求人状況、特に地域の産業ごとに求人倍率の変動が詳しく説明されています。
たとえば福井県(※3)では、3月は宿泊・飲食業など観光関係や、医療・福祉の求人が増加(前年同月比)しているのに比べて、製造業がやや後退している状況です。
沖縄県(※4)では、生活関連サービス業・娯楽業、製造業などが増加しているとのことです。
●ミクロで見る
全国で一つの求人倍率だけをとりあげて、雇用状況を語るのは少しおおまか過ぎる気がします。
求人と求職のマッチングは、県の単位で産業や職種ごとに観測し、施策を調整するのが一番しっくりくるのではないかと思います。インバウンド景気を期待している人たちと、地場産業の発展に力を注いでいる人たちとでは、”人材不足”といっても大きな違いがあるはずです。■
※1 長期時系列表[e-Stat] https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450222&tstat=000001020327&cycle=1&tclass1=000001204400&tclass2val=0
※2 <参考>労働力調査(基本集計)都道府県別結果 四半期平均 https://www.stat.go.jp/data/roudou/pref/zuhyou/ltq.xlsx
※3 福井労働局「雇用失業情勢 (令和5年3月分)」 https://jsite.mhlw.go.jp/fukui-roudoukyoku/content/contents/001444504.pdf
※4 沖縄労働局「労働市場の動き」令和5(2023)年3月 https://jsite.mhlw.go.jp/okinawa-roudoukyoku/content/contents/001447823.pdf