放送コンテンツ
(2023.06.06)
6月2日に、総務省の「放送コンテンツの制作・流通の促進に関するワーキンググループ」(第6回)が開催されました。
(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/02ryutsu04_04000218.html)
●論点(会議資料より引用)
日本のコンテンツ産業の市場規模は世界第3位(2021年)であり、放送はそのうち約3割を占める(※1)。
放送コンテンツの海外輸出額は571.1億円(2020年度)で成長傾向にある。日本のコンテンツ産業の成長、日本の各地域や伝統文化への理解の深化、それに伴う海外からの需要の呼び込みへの寄与といった観点から、放送コンテンツの海外展開をさらに促進していくことが重要。
これまでのWGにおける事業者等からのヒアリングや構成員間の意見交換の中で、
① 海外市場における日本発コンテンツのプレゼンスの向上を図ることにより、取引機会をより獲得しやすくするため、プロモーションの見直しが必要ではないか
② 放送事業者や番組製作会社が海外の放送事業者、動画配信サービス事業者等との契約交渉力の向上を図る必要があるのではないか
③ 海外の文化・言語に精通したパートナーとの連携などにより海外ニーズを把握して制作の参考にする、デジタル技術や最新の映像制作技術を活用するなど、制作に工夫が必要ではないか。また、そのためのノウハウの獲得、人材の確保・育成が必要ではないか
といった課題が指摘されている。
●統計データの意外性
コンテンツというと、音楽や映画(アニメを含む)をすぐ思い浮かべ、それらの世界市場は巨大であると思い込んでいました。
しかし統計データからは、その感覚は誤っていることがわかります。
下図は世界市場のグラフです。放送コンテンツが4割近くあり、音楽・映画・漫画・アニメと1桁違います。
国内市場に限ると、放送コンテンツは全体の3割を占めます。
正直に言うと、ここまでNHK・民放などの放送コンテンツが頑張っていることを初めて知りました。
●危機感
ただし、日本産コンテンツは各国・地域で一定のシェアは確保しているものの、全体としては低下傾向。 また、日本国内においても外国産コンテンツの存在感が上昇している現実があります。
稼げない→費用がなくなる→優れたコンテンツが生まれない→・・・・という負のスパイラルに陥っている状況と見られます。
●輸出されるコンテンツの中身
放送コンテンツの輸出額自体は伸びていて(571.1億円、2020年)、中身の大部分は「アニメ」です。売り先の半分はアジア圏、続いて北米です。制作元として、NHK・民放キー局が4割ですが、残り5割以上をプロダクション等が占めています。けっこう放送コンテンツでプロダクション勢が頑張っていることがわかります。
他方、見逃してはいけない動向として、映像コンテンツはもはや「放送から配信へ」の時代に変化していることです。COVID-19と時期を一にして、放送が減り、配信が年率22.3%の勢いで伸びています。(巣ごもり需要に対して、放送が適応できなかったとみることも可能でしょう。) 2025年予想では放送361.6億円<配信370.7億円と逆転すると見られます。
●海外展開
日本のJETRO(※2)やBEAJ(※3)が海外見本市や海外商談展開を支援しています。
よく対比されるのは韓国の海外展開支援です。
韓国は政府内の韓国コンテンツ振興院(KOCCA)が、海外の商談支援にとどまらず、人材育成まで遡った支援をおこなっています。2023年予算で総額384.65億ウォン(=41億円)。特にプラットフォームや人を介したネットワークによって、さまざまな面から売り込みをはかっていることが効果を上げていると言われます(※4)。
このような放送コンテンツの売り込みに、総務省が研究会を開くのは放送を管轄している立場として当然かもしれませんが、およそ畑違いの印象を持ちます。そもそもコンテンツの輸出は、それが放送であるかどうかは意味を持ちません。経産省、文化庁、知財本部なども交えた横断的なワーキングチームによって、それぞれの知見を持ち寄った、より多面的な議論ができるのではないでしょうか。クールジャパン機構の先行経験も活かすべきだと思います。■
※1 世界のコンテンツ市場の大きさを比較すると、米(521,951億ドル)、中(247,897)、そして日本(117,900)の順で、だいたい米に比べて1/2、1/4の規模と認識できます。
※2 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
※3 一般社団法人 放送コンテンツ海外展開促進機構
※4 JETRO調査レポート「プラットフォーム時代の韓国コンテンツ産業振興策および事例調査」(2022年3月) https://www.jetro.go.jp/world/reports/2022/02/66c457767e8bbf81.html